螺雛おだい。
□1.「ヒナタ様」
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まただ・・・。
また不機嫌になる。
ただ名前を読んだだけなのに。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけだが、眉間にシワを寄せて、こちらを睨むように顔を下げる。
何か悪いことをしたのかと思うが、それもほんの一瞬のこと。
すぐにいつもの軟らかい表情にもどる。
何をしたのかも分からない。ただ、名前を呼んだだけ。
以前はそんなことはなかった。
もちろん、自分が宗家と分家のことで悩み、怨んでいた時期は、
名前を呼ぶたびに、あなたは恐怖におびえた表情をしていた。
しかし、それは自分にも非があった。
名前を呼ぶのも嫌だと、相手を威嚇していたため。
しかし、その問題も晴れた後は、名前を読んでも徐々に表情を和らげてくれた。
もともとの性格もあり、恥ずかしそうに俯きながら返事をすることもあったが、
優しく微笑んでくれることもあった。
なぜ・・・?近頃のあの人の表情は不可解だ。
やっと二人の気持ちを分かち合い、共に生きることを誓ったのに・・・。