PERSONA3・短編

□思い出の品
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カーテン越しから、クラクションなどの騒音が聞こえた。

月が弱く差し込む室内で、スタンドの電気を点ける。


まだ眠たげな自分の顔が弱く照らされながら、虚ろに鏡に映しだされた。



今日は失踪した友人の弟達に、協力を依頼しに行く。
神郷の意志通り、出来ればあの子達の力は借りたくなかった。

だが、その本人が行方不明になっていては、そうも言っていられない状態だ。
何かが刻々と迫って来てもいる。

「………高校、2年…か…」


…彼を、思い出す。

もう10年経つというのに、昨日の事のように彼を思い出すことの出来る。


女々しいとは思っているが、人をあんなに愛したのは、あいつが初めてで、多分最後だと思う。



「…はぁ……」

まだまだ自分も子供かもしれないと、苦笑しながらため息をつく。

そして、横に掛けてあったワイシャツなどに袖を通していく。


一通り着替え終わって、上着とコートを手にとって、ふと、手袋をはめていない事に気がついた。


「…忘れるところだった。」


引き出しから黒い革製の手袋を取り出し、手にはめた。

これは中学時代からの習慣、というものだ。

高校でつけていた物は小さすぎたために、同じもでサイズの違うものを買った。
順平や美鶴に会うと、
「まだつけているのか」
と苦笑される。

しかし、この手袋は、意味があってつけ続けている。


「………これも、女々しいものに入る一つだな。」

苦笑して言った言葉は少し大きく、部屋に反響して消えた。


あれは、秋。
冷えてきて、そろそろ冬に入るのかもしれないと思いながら一緒に帰った、あの日。




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