PERSONA3・短編

□磁石
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曇り空の午後。
薄暗く、あまり光が差し込まないロビーでは、電気が点けられていた。

いつも話し声で賑わっているロビーだが、今日はテレビの音だけが響いていた。
メンバーは天田と美鶴、ゆかり、真田の4人。

それぞれが思い思いの事をしているため、会話が無く、テレビの無機質な音声だけが響いている。
そんな静寂の中、階段から降りてくる足音が聞こえた。

「あ。おはようございます。春兎さん。」

顔をのぞかせた人物に、本から顔を上げて挨拶する天田。

「おはよう。……静かだから、誰も居ないのかと思った。」

苦笑して相槌を打つと、一直線に玄関へと向かった。

「出かけるのか?」

と美鶴が声を掛ければ、春兎は扉の取っ手に手を掛けたまま振り返った。

「えぇ。買い物に。補助アイテムが無くなってきたので、その買出しに。」

本から顔を上げた美鶴に、にこりと笑って振り向いた春兎。

「そうか。頼んだぞ。
………あぁ。雨が降りそうだからな。空模様には気をつけろ?」

「雨降ったらメールして。届けに行ってあげる。暇だし。」

ゆかりが言うと、春兎は笑って
「ありがとう」
と言う。

「じゃあ、行ってき―…」
「待て。俺も行こう。」

今まで黙っていた明彦が、勢い良く立ち上がった。

「…え………先輩?」

傘を手にとって、春兎をエスコートするように、代わりに扉を開けた明彦。

「え?……あ…」

「行くぞ。」

「…ぁ……はい」

出て行った2人。
そんな2人を見た3人は扉が閉まると同時にため息を吐いた。

「凄い溺愛っぷりですよね。」

「そうだね。傘持ってく役、取られちゃったし。」

天田とゆかりは苦笑した。
明彦と春兎の関係を、寮内の人間は薄々気付いている。
まぁ……全員が虎視眈々と春兎を狙っているが……。

「まぁ。いいじゃないか。明彦が居れば、春兎に悪い虫が付かないだろう。」

美鶴は楽しそうに笑うと、本からいったん手を離し、紅茶に手をつけた。

「それも、そうですね。
けど、真田さんって、意外と負けず嫌いですね。ゆかりさんに嫉妬して春兎さんについて行くくらいですから。」

天田は淡々と状況を分析する。

「あははは。言えてる!」

ゆかりは笑うと、また携帯に目を戻した。
天田も美鶴も、元のように本に目を戻す。

静かで穏やかな時間が、また流れ始めた。


外では、湿った冷たい風が静かに木々を揺らした。




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