PERSONA3・短編

□お預けの理由
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現在の春兎は気まずそうに、目線を宙に泳がせて、明彦とは目を合わせないようにしている。

明彦は怪訝そうな顔をして、じっと春兎を見ている。

しーん…と、静か過ぎる沈黙が降りていた。

「……こっち向け。」

明彦が言うと、おずおずと春兎は明彦と目を合わせた。

「…とりあえず、理由を言ってくれないか?」

「………」

諭すように言っても、春兎はますます気まずそうな顔を崩さない。
それどころか、余計に表情を濁らせていく。
そんな春兎を見て明彦はため息を吐いた。

「………………襲われて吐くのと、自白するのはどちらがいいかな……」

「Σ!?」

考え込むように呟く明彦の言葉に、焦ったように春兎は顔を上げた。

「…嘘だ。やっとこっち見たな。」

「……う…すみません。」

明彦が微笑むと、また春兎は俯いてしまった。

「せっかく顔上げたんだから、下向くな。」

今度は明彦が顔を掴んで、春兎の顔を上げさせる。

「理由を言ってくれ、嫌がられてるんじゃないかと……―」

「そんなんじゃないです!!」

必死に、泣きそうな顔で否定する春兎。
ここまで否定されると、明彦もさすがに苦笑するしかなかった。

「じゃあ、教えてくれるか?」

苦笑したまま訪ねると、春兎はまた俯いてしまった。
この春兎の行動には、さすがに明彦も笑うしかなかった。

「………………で…す…。」

必死で笑いを噛み締める明彦の耳に、ぼそりと言葉が届く。

「…ぇ?」

耳を傾けて「もう一度」と促すと、春兎は再び口を開けた。

「…口内炎が出来てて……痛いんです。
だから、キスなんて、痛くて出来ないんです…」

本当に申し訳ない。
と言う様に、春兎はぼそぼそと言う。

「…………それだけか?」

どんなお理由かと思えば、口内炎。
半ば呆然とそう聞いてしまった。

「それだけって…!」

「分かった。悪かった。十分問題だよな。」

今にも怒り出しそうな春兎をなだめながら、明彦は心の中で安心した。

本当に嫌われていたり、嫌がられていたりしていたらどうしようかと………。本当に不安になっていたのだ。

「…うん……じゃあ、これならいいよな。」

「え?」

再び、明彦の顔が春兎へと近づいた。明彦の片手は春兎の前髪を掻き分けている。
そして、先ほどとは違く、明彦の唇は春兎の額へと吸い込まれるように近づいて行った。

そして、ちゅっ…と音を立てて春兎の額にキスを落とす。

「しばらくはこれで我慢だ。おやすみ。春兎。」




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