NOVEL

□しろ、しろ、しろ
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思わず鼻歌を歌いたくなるくらい、暖かな日でした。
まだまだ寒い時期のはずなのに、今日はなぜだか特別暖かく、ついさっき部室に来たキョンくんは制服の上着を脱いでいます。
そのキョンくん、そして向かい側に座る古泉くんのところに、あたしは熱いお茶を運びます。意地悪ではなく、涼宮さんが熱いお茶を飲みたいと言ったから。
二人はオセロをしていました。今日はめずらしく古泉くんの白が陣地を広げています。
「頑張ってください」と二人に声をかけ、次は長門さんと涼宮さんに。
長門さんはいつも通りに読書をしていますが、涼宮さんはその長門さんの髪をくりくりと弄って遊んでいます。
白いお花の飾りがついたヘアピンで前髪をとめると、きれいな額があらわれます。長門さんはとくに迷惑そうにもしていないので、良いのでしょう。
「ほーら有希、できたわよ! 最高の可愛さね!」
涼宮さんは自分の鞄から取り出した鏡を長門さんにむけると、そのままあたしが置いたお茶を一気に飲み干しました。熱いはずなのに、涼宮さんはにこにこと笑顔です。
でも、それよりもあたしが目を奪われたのは、不思議そうに鏡をのぞきこむ長門さんでした。
涼宮さんの手から長門さんの手へと渡った鏡は、窓から差しこむひかりを反射して、彼女の頬を白くライトアップします。
頬だけじゃない。
前髪をとめたせいでよく見えるようになった額も、本を開いたままおさえる指先も、なにもかも。白くて白くて、色白だとよく言われるあたしよりずっと白くて。
なんだか、今日の日差しにあたったら雪のように溶けてしまう気がして。
あたしはそれがひどく怖いように思えました。少し苦手な長門さんだけど、それでもやっぱり、ここに居ないといけない存在だから。
SOS団の団員なのだから。
あたしはおぼんをきつく抱えて、長門さんをじいっと見つめました。溶けないで、長門さん。
同じ白でも、そのヘアピンに咲く花のように、太陽に向かって一生懸命に輝いていてください。
だからあたしは言いました。
「長門さん」
緊張で声が少しふるえてしまったけれど、かまいません。
「外に行きませんか? 今日はお日様が、あの、暖かいですから!」
お願いだから、太陽を見上げる花でいて。
鏡から目をはなした真っ白な彼女は、いつもより大きめに頷いてくれました。
ぼうっとしているあたしを見てか、自分でお茶のおかわりを淹れていた涼宮さんがそれに続いて賛成してくれます。
「いいわねそれ、採用!」
キョンくんと古泉くんはどうですか、と振り返ると、そこには真っ白になったオセロのボードが見えました。
「悪夢だ」なんて声も聞こえて。
鼻歌を歌いたくなるくらいに暖かで、おかしくて、幸せで、まっしろな放課後のお話です。

end.

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