NOVEL

□藍色に沈む
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大丈夫です、そう言って電話を切った。
だってそれしか選択肢はないから。こころの中のあたしはそう付け加えたけれど、電話の向こう側にいる彼は普通のひとだから、その声を聞き取る術をもたない。
役割を終えた携帯を右手に持ったまま仰向けに寝転がる。今日は不思議探索のない休日。味気ないあたしの部屋。近くの机には、飲もうと思って汲んでからそのままの、透明なコップに入った水。
この休みが明けたら、あたしはまた涼宮さんが持ってくる衣装を着るだろう。今の電話はそれを心配したキョンくんからだった。
だからあたしは答えた。大丈夫です。
もしもあたしが強く拒否をしたのなら彼もきっと同調してくれる。
すると、どうなる?
涼宮さんは苛つく。古泉くんが戦いに出る。長門さんは全てを知っている。それなのに、何も言おうとはしない。十分じゃない優しさはたまに鋭くなってあたしを突き刺す。
だからあたしは自分で決めなくちゃならなくて、でもそれができなくて。
あたしは何もできない。何もできないのに、逆らう権利なんて無い。
情けなくて、涙がでた。
重力に足掻くことなくこめかみにすべり落ちる雫。それは量の多くなった髪を濡らし、どこかへ消えてゆく。濡れた髪は顔に貼りつくから、あんまり好きじゃない。去年の夏、SOS団で合宿に行ったときに海で濡れた髪はそんなに嫌じゃなかったけれど。
だれかと話したくなる、誰かと繋がっていたくなる。例えばそれは涼宮さん。例えばキョンくん。長門さん。古泉くん。鶴屋さん。なにもできなくてごめんね、と。
でもそれは、結局ひとに頼るということ。弱さを盾にして縋るということ。
あたしはひとりじゃ何もできない。
にぎりしめた携帯を見やる。むくりと起き上がって、すぐそこのコップの水と見比べて。ついでに目尻も拭って。
浅い深呼吸をしてから、
吐息の音をききながら、
静寂に沈みながら、
手にした機械を小さな湖に落とした。
壊れるだとか面倒なことは後回しにして。ただ、それが一瞬光ってから、反応が無くなるのを見ていた。その光を水中花みたいだと思った。
全てを絶ったひとりきりの世界で。

水中花みたいだ。

end.

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