NOVEL

□ちいさな光
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今日は毎週恒例、不思議探索の日だ。
そして俺の財布が減量する日でもある。
…のだが、どうしたことか、集合場所には俺一人しか居なかった。
「あと20分しかねーぞ…」
腕時計を見る。呟きは白い息になって散った。
今は12月。当然だが、寒い。
そんな中、一人突っ立ってる俺は何なんだろうね。本当。
「あ、キョーン!」
近くの喫茶店に入って待ってようかと考えていると、聞きなれた馬鹿でかい声が嫌でも耳に入ってきた。
その声の主は他の誰でもない、団長様の声なわけで。
…というか外でその間抜けな愛称を叫ばないでいただきたい。
「今日はみんな用事があるから来れないって。だからアンタの奢りね」
「最後に来たのはお前だろ?」
するとハルヒは目と眉を綺麗に吊り上げつつ、口は笑っているという何とも器用な技を披露した。
「あんたねぇ…雑用が団長に奢らせるなんて2億3490万年はやいのよ」
……どうやら俺の財布の減量は既定事項らしい。

「あー、やっぱり冬のカフェオレはいいわよねっ。しみるっ」
店員が営業スマイルと共に運んできたいかにも熱そうなカフェオレを一気飲みしたハルヒは満足気な顔をした。
「早く不思議探索しないと日が暮れるぞ」
日が短くなったしな、とつけたしながら俺もホットコーヒーを口に運ぶ。
実はこれ以上追加注文をしないように言った言葉だったのだが。
「…そうね。暗いと不思議も見つけにくそうだし。キョンにしては名案ね」
そう言ってハルヒは立ち上がり、ズンズンと歩き出した。
速ぇ。
急いで会計を済ませた俺はハルヒを追いかけ、店をでる。
「キョン! あそこ怪しいわ! 絶対未来人とかいそうよ!」
未来人ならグラマーな上級生をあたればいいと思うが。
まあ、そんなこんなで俺は
「宇宙人の気配がする」だの、「超能力者が住んでいる」だの、「神様はあそこに居る」といった
いちいち突っ込みたくなるようなハルヒの発言に振り回されながら不思議探索を続けた。
「ハルヒ、もう暗いぞ」
今は6時30分。
まだ早い時間だが周りは真っ暗だ。
「そうね。そろそろ帰りましょ。
 みんなが居ればもっと探索できたんだけど、二人だけじゃ危ないしね」
たしかに長門がいれば地球のどこよりも安全な気がするな。
「じゃあ、解散ってことで、」
「…キョン……」
いきなり不安気な声がした。ハルヒの声だった。
「どうした?」
ハルヒらしくも無い。
「あのさ、みんなが今日休んだのって偶然じゃないのかな…?」
何でその話題になるんだ。
「もしかしたら、迷惑なのかな…いつもあたしの思いつきで行動してるし……。
 あたしは楽しいけど、みんな本当は嫌なんじゃないかって思ったの…」
ハルヒにしては鋭い推測だった。
「みくるちゃんは無理矢理書道部からつれてきちゃったしコスプレも嫌がってるし、
 有希は読書できればいいって言うけど、うるさくなったし、
 古泉くんは転校して早々SOS団にいれたし……。
 みんなSOS団に入ってなければ変な目で見られずに、普通に過ごせてたんじゃない……?
 みんな優しくて大人しいから言えないだけでさ…。
 キョンだって、あんたの意思でSOS団に入ったわけじゃないでしょ……?
 本当はキョンもみんなと、今日休むつもりだったんじゃない?,br>  はっきり言って…。キョンは、迷惑?」
長台詞をゆっくりと述べたハルヒは、俺を見上げた。
それは、今にも消え入りそうな声、いや、存在までもが消えてしまいそうで。
最初に断っておく。これは一時の気の迷いだ。
俺は、ハルヒを抱きしめた。
優しく、それでも強く。
消えてしまわないように。
「キョンっ…?」
「馬鹿。今更そんなこと言うな」
こんなことをして、あとでどんな罰ゲームが待っているのだろうね。
でも、今はそんなことどうでもいい。
今度は俺が話す番だ。
「迷惑してるかだって? そんなもん、最初からお前は迷惑の塊みたいな奴だったさ」
ハルヒの身体が小さく縮こまる。
「でもな、退屈はしてない」
顔が熱い。耳が熱い。冬なのに、熱い。熱があるわけじゃない。
「SOS団に入って退屈してる奴なんて一人もいねえ。
 そりゃあ、この団に入ってなかったら普通の生活をしてただろうよ。
 けどな、普通の生活ってのは、意外と退屈だ。
 朝比奈さんだって、お茶を淹れるの結構楽しんでるし、
 古泉は負けっぱなしのボードゲームが好きらしい。
 長門なんかは表情が豊かになってきた。
 だから、自信を持て。
 お前は朝比奈さんにお茶淹れという新しい趣味をあたえ、
 古泉にバイトだけじゃない生活を教えた。
 長門だってあんなに意思表示が出来るようになった。
 俺だって、ガキの頃の願望が叶ったんだ。
 みんな、お前を不安にさせようなんて思っちゃいねえよ」
ハルヒを見れば、顔が真っ赤になっていて、それはきっと俺も一緒で。
「キョンのバカ。雑用のくせに偉そうなこと言うなっ」
そういって、俺の背中に手を回してきた。
俺たち、きっとバカップルみたいに見えてんだろうなぁ。
そんなことを考えたが、もうどうでもいい。
ハルヒが笑っていたから。
その瞳に、街灯のちいさな光を映して。

END.
 

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