NOVEL

□王様ゲーム
1ページ/1ページ


「王様だーれだっ?」

楽しげな声で声を発したのは
涼宮さんだ。

今はSOS団の夏期合宿中で、
王様ゲームをやっている。

「またあたしぃーっ!」

涼宮さんは「王様」と書かれた
割り箸を高く頭上に上げてから、「王様」としての命令を下した。

朝比奈さんはビクビク、
長門さんは無表情に、
彼は呆れた顔で、それぞれ
自分の番号を見つめている。

願わくば、
自分に災難が
降りかからないように、と。

「3番の人と1番の人っ! 
 熱ーいキス! 
 ただしみくるちゃんとキョン、
 有希とキョンの場合は
 無効ね!」

涼宮さんは条件つきの
命令をすると、
笑いを堪えられないといった顔で
僕たちを見た。

早く名乗り出ろと
いわんばかりに。

「おや、僕が当たって
 しまったようです」

いつも通りの笑顔で
「1番」と書かれた
割り箸を見せる。

「3番の人は?」

そう言って涼宮さんは
朝比奈さんを見た。

「違います、2番です」

証明するために、
言ったとおりの番号が書かれた
割り箸を見せ、首を左右に振る。

「有希?」

「…………」

問いかけられると、
長門さんは無言で割り箸を
顔の高さに上げた。

書かれている数字は、「4番」。

ということは、まさか……?


涼宮さんはにやりと笑い、
ある人物の方へ顔を向けた。

「キョーンー!?」

「……わかったよ!」

彼は諦めたように「3番」と
書き込まれた割り箸を無造作に
放った。

「……で、わかってるわよね?」

彼は焦ったように口を開いた。

「な!? するかバカ!
 古泉も反論しろ!」

話をふられても仕方がない。
こちらは
逆らえない立場なのだから。

「そう言われましても……」

「はい決定! キョンと古泉君、
 キスしなさい!」

涼宮さんは彼の反論を
無理矢理にかき消し、
改めて名前付きで命令を下した。

「……ったく…………」

彼は「やれやれ」という声が
聞こえてきそうな表情で諦めた。

そのまま顔を近づけてくる。


え? ちょっと、冗談ですよね?
そりゃあ嬉しいですけど、
彼からですか? え? 
冗談でしょう?


様々な思考がめぐり、
冗談だと結論を出したが、
お互いの顔は近くなる一方。

そして。

―キスをした。

僕の、頬に。

「えー、ほっぺー? 
 つまんない。
 次は古泉君のお返しキスね!
 ほっぺだったから」

ほっぺ。
涼宮さんの言葉を繰り返す。

頬。
言い換えて、さらに言う。

散々焦らせておいて、
頬ですか―?

自分だけ焦ったみたいで、
悔しくて。だから。



「好き、ですよ?」


そう囁いて、キスをした。


彼の、頬に。


彼の顔はみるみる赤くなって。
僕をキッと一睨みすると、
おもむろに立ち上がった。

「トイレ行ってくるっ」

そう言って、出て行った。

本当は赤い顔を
見られたくないだけなのに。
本当はトイレなんて
行きたくないのに。

そうやって強がる彼の、
全然怖くない睨み方を
思い出して、
思わす笑って呟いた。



「可愛いひとだなぁ……―」



end.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ