NOVEL

□意味のある何でもない日常。
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短くなってきた陽が傾いてきた頃。
俺はそろそろ外に遊びに行ったハルヒ達女性群が帰ってくるだろうと予想し、
正面の席で寝息をたてている自称エスパー少年に声をかけた。
「古泉、こいずみ、古泉ー」
古泉が目を開く。
しばらく辺りを見回してから、俺のほうに向き直ってへにゃりと笑った。
「あ、すみません…」
「お前が寝るなんて珍しいが、何かあったか?」
「いえ…」
何となく曖昧な言葉で誤魔化そうとした古泉の顔をじっと見つめる。
二人だけなのだから理由を言っても良いじゃないか。
俺は心の中でそう主張し、変な意地で古泉を直視する。
古泉はにこにことその視線を受け止めていたが、
居心地が悪くなったらしく、すぐに目をそらした。
俺はめげずに見つめ続ける。
「……あの…」
「何だ」
「何で…見てるんですか…」
「気になるからだ」
「何がですか」
「居眠りした理由が」
簡潔に答える俺。
戸惑う古泉。
古泉は諦めたように笑うと、俯いて表情を暗くした。
よく見ると辛そうな顔に見えなくも無い。
「…少し、疲れてしまって……」
俺は黙って続く言葉を待つ。
「…《神人》にも、…学校にも……」
「…そうか」
「はい…」
何か、初めて古泉の言葉を聞いた気がする。
SOS団副団長でも、謎の転校生でも無い、古泉一樹の言葉を。
《神人》に関してはまあまあ大変そうだとは思っていたが、学校とは。
確かに、夜中に《神人》を倒したとしても学校には行かないといけないから、結構ハードな生活になるな。
気の利いた言葉でもかけてやろうと思ったが、俺にそんな才能は無く。
「……嫌なら、いいんだぞ」
「え―――?」
「学校に行くのが辛かったら、休めばいい。
 《神人》は断れないかもしれんが、不思議探索もそんなに早く来なくてもいいだろ」
「……」
「たまに休んだほうが、人間らしいからな」
古泉は少し顔を上げると、ゆっくりと笑った。
ぎこちなかったが、それでも充分だった。
「ありがとう、ございます」
扉の向こうで、ハルヒのはしゃいだ声が聞こえた。
もうすぐ、帰ってくるだろう――

end.
 

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