NOVEL

□繋雪
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――パタン
ふいに渇いた音がして、意識が戻る。
一瞬目の前の暗さに驚いてから、状況を理解した。
あたしは、部室で机に突っ伏して寝てた。
それだけ。
顔をあげると、有希が本棚に読み終えたと思われる本を並べているのが目に入った。
周りを見渡すも、他の団員の姿は見当たらない。
「有希、みんなは?」
「……先に帰宅した。残っているのは私と貴女だけ」
有希が先に帰ってくれとでも言ったのだろう。
あたしを待っていてくれたことに嬉しさを感じながら、椅子に預けていたからだを持ち上げる。
「待たせて悪かったわね。帰りましょ」
「…………」
沈黙で答え、同じように立ち上がる。
あたしはみくるちゃんがハンガーにかけてくれたコートを羽織り、手袋をはめようとして―
「有希、あんた何も備えてこなかったの?」
「……何も、とは?」
「マフラーとか、手袋とか」
あまりの薄着に目を目を見開いた。
あたしの隣に立っている少女は、寒さに備えたものを何も装備しないまま廊下にでようとしていたのだ。
カーディガンがあるとはいえ、いくらなんでも寒いわよ、それは。
「あ、ホラ! 雪降ってきたじゃない!」
「……?」
「有希じゃなくて、雪! 窓の外!」
有希はその寒そうな格好のまま窓辺に近寄り、
いつの間にか舞っていた真っ白な雪をじっと見ていた。
にしても、「雪」って言ったときの顔、面白かったわね。
「雪」を自分の名前と勘違いして、驚いたような顔。有希は表情が読み取りづらいけど、長い間付き合ってれば変化くらいわかるものよ。
有希って、たまにホント可愛いことするわよね。
「あ、そうだ」
あたしは窓辺に棒立ちしている彼女の手を取ると、あたしがはめようとしていた手袋を片方だけ渡した。
「これ、貸してあげるからつけるのよ?」
「……」
有希は返事のかわりにあたしの手をじっと見つめていた。
……もしかして、あたしが寒くなるからって遠慮してる?
「大丈夫よ! こうすれば両手とも暖かいでしょ?」
そう言って有希のもう片方の手をとる。
つないだ手は、ひんやりと冷たかった。
「……わかった」
やっと言葉を返して、手袋をはめる。
あたしも片方だけの手袋をつけて、有希の手を引く。
「早く帰りましょ! 明日のSOS団の活動を決めないと!」
あたし達は昇降口に向かって足を進めた。
そして、昇降口に下りたとき。
「……」
有希が傘を差し出す。
……えっと……何だろ……。
「……雪が」
「雪が?」
「降っているから」
「……から?」
「……半分、入って」
ああ、なるほど。
「でも、」
「お礼」
それだけ告げて、手袋を見せる。
手袋のお礼に、相合傘をしたい、と。
「そう」
「あ、じゃあありがと」
素直に礼を述べて、突っかけていた靴に踵を入れる。
有希と並んで外に出れば、雪は少しだけ勢いを増していた。
その雪を、有希の傘が頭上で受け止める。
あたしは有希の傘を持っていないほうの手を掴む。
手と手が繋がった瞬間、あたしの心の中に暖かいものが流れた気がした。
「有希」
「なに」
―――大好きだからね。
隣に居る彼女の頭が、少しだけこくりと頷いた気がした。

end.
 

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