NOVEL

□空と飛行機と白刃取り
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季節は夏間近。いや、夏と言ってもいいかもしれない。
毎年決められたとおりにやってくる夏休みを二週間ほど後に控え、クラスの奴らはもちろんのこと、全校の生徒がそのイベントを待ち遠しく思っていた。
もちろん俺だって少しは心待ちにしていた。
そんな時期のある日、団長の興味は遥か上空にむいたようだった。

「なぁなぁキョン。お前13日空いてるか?」
午後、睡魔に白旗をあげそうになりながらも何とか乗り越えたHRの直後、なれなれしくも俺の机に手をつきながら話しかけてきたのは谷口だった。
その背後には国木田がどう? とでも訊きたそうに立ちつくしている。
「13日」というのは夏休み中、8月の話だろう。
俺は質問とは少し焦点のずれた回答を、嫌味をふくめつつ寄越した。
「……何だよ、藪から棒に。けさ挨拶もしないで国木田と話してたのはその事か」
「何ならいま挨拶するか? おはようキョン。……で、13日空いてるか?」
……つもりだったのだが、谷口はそれを茶化しながら同じ質問を繰り返すのみだった。
13日か。
後ろの席を盗み見る。別に堂々と振り返ってもいいのだが、何となくこっそりとしてみたかったのだ。
そいつはこちらなど見向きもせずにせっせと帰りの支度をしている。アホの谷口の話など、自慢の地獄耳を使う価値もないと判断したのだろうか。
だがこそこそと視線を向ける俺が目に入ったのか、面倒だといわんばかりの顔で言葉を放る。
「何よ」
「13日って予定あったか?」
ハルヒは一瞬考えるような素振りを見せるも、数秒で止める。代わりに教材をしまいこんだ鞄を手にとり、
「それはいま話し中よ。いつ何をやるか決まってないじゃない。……あたしは先に行ってるわ。早く来なさい」
と教室をさっさと後にした。
しばらくその背中を見送っていたが、谷口と国木田の存在をようやく思い出して向きなおる。
右手の親指で背後の席を指しながら、
「だとよ。ハルヒが予定を決めるまで13日の用事は未定だ」
と諦め半分のポーズで最初の質問に答える。
すると、今までカカシのかわりでもやってたんじゃないかと思うほどに静かだった国木田がぽつりと呟いた。
「キョンはすっかり団長様様になったねぇ」
冗談じゃない。いつ俺がハルヒに「様様」などとあの傍若無人女を慕うような単語をつけたというんだ。
「だって、昔のキョンならSOS団の活動を無視してまで予定を空けてくれてた気がするよ。ねえ谷口」
「ああ、確かに」
俺は後々の仕打ちが恐いだけだ。
そう口の中でつぶやくと、あとは聞こえないふりを決め込んで帰り支度をはじめることにした。
「馬鹿なこと言ってる暇があるなら掃除当番の迷惑でも考えてろ。じゃあな」
右手をひらひらと振り、掃除当番に軽く謝ってから部室へむかう。
掃除当番以外に教室に残っていたのは俺たちだったようだ。話しこんでしまった。
開け放たれた廊下の窓から風が吹きぬけ、何気なく外を見やる。
久しぶりにはっきりと空を見た気がして、思わずその風景に呟いていた。
「良い天気だ」
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