NOVEL

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『第二回SOS団主催クリスマスパーティー』。
ホワイトボードに殴り書かれたその文字を見つめてから、ハルヒは勢いよくペンを置き、代わりに黒板消しを手にとった。
「ああもう! 何か違うわ! 苛々するわね!」
そう言いながら力任せに文字を擦る。そして気持ちをリセットするように、自分専用の湯のみに口をつける。この作業はついに本日五回目を迎えた。
SOS団団員長門有希の不在により、我らが団長は酷くペースを狂わせていた。

「何がそんなに気に入らないんだ。いつも長門に手伝わせていたわけでもないだろう」
「そういう問題じゃないのよ! ページをめくる音とか、視界にちょっとだけ入る髪の毛とか、そういうのが無いと何か嫌なの!」
俺はやれやれ、と溜息をつく。
まあ確かに、長門は読書をしているだけに見えて結構大事な役割を果たしていたのかもしれない。
規則的にページをめくっていく音は、考え方によれば時計の秒針みたいなもんだ。
昨日古泉が言ったとおり、団員が欠けているということも気に食わないのかもしれない。ちなみにその古泉はいつもの位置でいつもの通りにスマイルを提供している。その胡散臭さは直せないものか。
「あっ……」
俺がその胡散臭い笑みの裏には何が隠されているのだろうかと考えを巡らせると、小さく声が聞こえてきて、無意識にそちらを見やる。
そこには昨日のハルヒの命令どおりにサンタ服に身を包んだ、麗しの朝比奈サンタがいらっしゃった。
古泉とハルヒもそっちに視線をやっていたようで、彼女は俺等の注目を集めていたことに気付くと申し訳なさげに笑って見せた。
「ごめんなさい、長門さんの分もお茶いれちゃって……」
視線をずらすと、いつも長門が座っていた場所には、湯気の立ち上る湯飲みが置かれている。
朝比奈さんまでもが長門不在の影響をくらったらしい。日ごろの癖とはやはりこういうものなのか。だがその問題は
「あ、ちょうど良いわ。それちょうだい」
というハルヒの声によってすぐに解決した。
五回も飲んでいるうちに湯飲みを空にしたらしく、ハルヒは長門の定位置からお茶を奪い去る。
そして一気に喉に流し込んだ。ありがたさの欠片もない飲み方である。
……そろそろか。
俺は静かに口を開いた。

「長門は、実は予定なんてないらしい」
「え?」
長門の湯飲み片手にハルヒが目を丸くした。朝比奈さんも同様。古泉だけは「何を言い出すつもりだ」という顔で俺を見ている。ぱっと見はいつもと変わらないが。
大丈夫さ。そりゃあ多少は機嫌を損ねるかもしれないが、すぐに満面の笑みになるはずだ。閉鎖空間は発生させない。……多分。
俺はいつもの通りのトーンで言葉を継ぐ。頭の中は昨晩考えた嘘を必死に思いかえすのに精一杯だ。
「あー……長門の家の親は、けっこうな過保護らしい」
先に謝っておこう。長門よ、アホらしいでっちあげばかりですまん。許してくれ。
「だから一人暮らしを許したのも奇跡に近いんだ。男にナンパされようものなら……そりゃ酷いことになる。だがな、去年の今日、運悪く長門はナンパされちまったらしい。その時は頑なに拒否したんだが、20日までにわたってしつこく誘ったそうだ」
「なんですって? 許せないわ、そいつ!」
ハルヒが燃え上がるが、実際にはそんな奴などいない。過保護な親すらいない。……いるとすればそりゃハルヒだ。
「だからその親は大いにそいつを呪った。そしてまたそんな事が無いように、今年のその期間はまっすぐ下校するように指示したらしい。それが真相だ」
嘘だけど。
だがその嘘をハルヒはあっという間に信じ込んでしまった。朝比奈さんは少し疑問を感じているようだ。ついでに古泉の顔もうかがうと、今度はしょうもない言葉に呆れたような笑い方をしていた。
「そうだったのね……。用事があるなんて言って、なんて健気な子なのかしら!」
「その通りだ。そして長門は今ごろ部屋の片隅で寂しさに打ちひしがれているに違いない」
少し悪ノリしすぎた気もするが、ハルヒは特に不思議に思っていないようだった。あとは提案をするだけだ。
俺はまっすぐハルヒを見つめ、息を吸ってから切り出した。
「そこで一つ考えがあるんだが……」
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