すてき!

□『存在』
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君がいるだけで俺はすごく元気になれて、




君がいないだけで気持ちはどんどん沈んでいく。






君の行動に一喜一憂する、そんな俺を、








君は知っているのかな…?








『存在』


―――昼休み。

俺は一人で黙々と次の授業の予習をしていた。

別に俺が真面目だからとかそういうわけではない。

ただ単に暇だからこうしているだけの話。


いつもだったら、三郎や雷蔵、そしてハチと一緒に過ごすのだが、生憎ろ組は裏々山まで実習に行っている。

同じ組の奴らとも絡めなくはないが、やっぱり四人でいる時と比べると物足りないものがあり、
だったら一人でいる方が良いと考えてたわけである。


だけど・・・

「暇、だ・・・。」

たいして難しくもなく、重要でもない内容を予習するのにはやはり限界があった。

次の授業どころか、もう三つくらい先の授業の予習をし終えたというのに、時間は信じられないほど少ししか経っていない。


こんな時、三郎がいれば面白いのに、

雷蔵がいれば楽しいのに、

・・・ハチが隣にいれば、それだけで充分なのに・・・。




「ハチ達が帰って来るのって・・・」

いつだっけ…?

確か、

『早くて昼休み前、遅くて夕飯前。』

って言ってたような気がする。

今は昼休み中だから、前者の可能性はもうなくなった。

もう少し後、って場合も有り得るけど、たいていこういう時はいつも遅い。
ろ組の実習はいつも極端だから。


「帰ってくるわけないよな…。」

一人ぽつりと呟く。

「帰ってきちゃいけないか?」

「いけなくはないけど・・・ってハチ!?」

はっと我に返り振り向けば、そこには実習に行っていたはずのハチの姿があった。

「よっ!」

「いや、よっ!じゃないから。もう実習終わったのかよ?」

「おう!」

はつらつと応えるハチ。
先程からやたらと元気だ。

「だったらそれを早く言えよ!」

俺が少し頬を膨らませて文句を言うと

「いやややや。これでも一番最初に兵助のところ来たんですけど…。」

意外な返答が返ってきた。

「は?」

なんで?
声にならない声で、そう口を動かすと、

「兵助が寂しがってると思ったから。」

得意そうな表情と共にそんな言葉が返ってきた。


「はっ?」

寂しがってなんかないし!

そう言い返そうとした時、
不意にハチが俺の腕を引っ張った。


勢いでハチの方によろける。


「行くぞ!」

そのままハチは、まだ体勢を整えきれてない俺の手を引き、走り出した。


「ちょっ、待てって!」

俺の制止の声も聞かずどんどん走り続ける。

俺はそれに着いていくのが精一杯だった。





「よし!着いた!!」

そう言ってハチがやっと止まった場所は、ある大きな木の下だった。


「ここって・・・」

確か・・・

「俺と兵助が初めて会った場所。」

そう言いながらにっと笑うハチ。

その笑顔を見ると、不思議とここでハチに初めて会ったときのことが思い出された。

・・・そう、あの日のハチもこんな笑顔だったんだ…。


「よっ、と。」

ハチが木の下へドテンと座りこんだ。

その隣へ俺もゆっくりと腰をおろす。

と、

「兵助!寂しかっただろ?よく我慢したな。よしよし♪」

いきなりハチが俺の頭をガシガシと撫で始めた(全然撫でてるって言えないけど…)。

「やめ、…」

制止をさせようと声を上げる。
しかし、それはハチの顔を見た瞬間に途切れた。

ハチの表情があまりにも優しすぎて…
思わず言葉に詰まったんだ。

そして同時に、自分が無意識に寂しがっていたことを理解した。



首を少し曲げ、ハチの肩に頭が乗っかるような形で凭れ掛かる。


すると、ハチは先程とは違う、優しくゆっくりとした動作で俺の頭を撫でてくれた。


その一回一回にすごく愛情を感じて・・・

やっぱり俺はこいつが大好きだと、愛しいと感じた。



…ゆっくりと目を閉じる。

相変わらず続く愛撫はそのまま眠ってしまいそうなほど気持ち良くて、

(今日は授業さぼって、このままいてもいいかもしれないな・・・。)

なんて思った。











君がいないとすごく寂しくて、

君がいるとすごく満たされる。



君の一挙一動に敏感に反応する、そんな俺を、



君はいつも優しく受け止めてくれる。





…そんな君が俺は本当に大好きです。







「ハチ・・・。」

愛する人にぴったりと寄り添ったまま、


俺は静かに眠りに落ちた…。











―おわり―
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