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□想い(綱山)
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今日は2月14日。
聖バレンタインの日。
「よお、ツナ!」
オレは山本自身より、持っている紙袋の中の大量のお菓子類(袋から飛び出しているため分かった)が目についた。
彼はいつも明るく笑っているクラスの人気者だし、野球部のエースだし、ルックスも凄くいいので、正直かなりモテる。
それに比べてダメツナのオレはやっぱり全然だった。
多分今年もまた身内から一個(もちろん母さんだ)貰うだけだろう。
いや、京子ちゃん辺りから貰えるかもな。
でも、今例え京子ちゃんがくれたとしても正直あまり嬉しくない。
だって今は……
「ん?ツナも一個食うか?」
オレは山本を見た。
すると、視線があってニカッと笑った。
そして袋を上げ、指差して言った。
オレはいいよと苦笑いしながら断った。
胸が、疼いた。
やっぱり山本はその女の子の想いの塊を食べるんだ。
彼はなんとも思ってないと思っていても、やはり嫌なものはイヤだった。
「ツナ?どうかした?」
案の定山本は、突然黙っていたオレに怪訝な顔で尋ねた。
「……え?いや、なんでもないよ」
オレは心配させないように必死に取り繕った。
彼は、ならいいんだけど!と上機嫌に言った。
彼は妙に聡いところがある。
どうやら人の纏う空気の変化というものには敏感らしい。
(だけど、でも)
「それにしてもその量凄いねー。そんなに沢山どうするの?」
それ、全部食べてしまうの?
それとも誰かにあげてしまうの?
いや、食べれるだけ食べて、食べれなかった残りはゴミ箱行き?
質問は沢山ある。
だけど何も聞かなかった。
もちろんこの想いのことも……。
オレはポケットに忍ばせた小包を彼にばれないように、しかし力強く握った。
(想いを押し込めて、
今日も何もなかったようにいつもそうあるように彼の隣りで笑っていよう)
(くしゃりとへこんでしまった包みのように、へこんだ心。)