短編集2

□ある、夏の日の夜。
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公園で、静かに泣いていた。
ここくらいしか、アタシが思う存分泣くことを許してくれる場所はなかった。

辺りは真っ暗で誰もいない。
こうしてアタシを隠してくれる公園の存在だけが優しいものに思えた。
ここなら誰にも涙を見られず1人で泣ける。


なのに。
足音が聞こえたと思ったら、アイツだった。


「よぉ、」

「……何よ、笑いに来たの?」

「まあな。お前のブスな面拝みに来た」

「性格悪」

「ケケケ、自覚してる」



蛭魔。
この鬼畜な悪魔は、アタシに1人で泣くことを許してくれないらしい。
ほんと、性格悪。





吹奏楽部のコンクールが終わった。

あんなに、あんなに打ち込んだ部活ばかりの日々。
それも全て今日のコンクールのためだった、だけど、それも今日で終わりなのだ。終わったのだ。

アタシたちの夢は、届かなかった。
それだけの、こと。



隣のベンチに座る蛭魔。
アタシは涙を見られまいと顔を背けた。


「アンタも暇人ね」

「そうでもねえよ」


ダメだ、声が震えてる。


「じゃあさっさと帰ってよ。忙しいんでしょ?」

「やなこった」

「気のきかない男ね」

「何とでも言え」

「………」


アタシが涙見られるの嫌いなの知ってるくせに。
本当に気の利かない、男。

そもそもコイツ、夏合宿に行ってるんじゃなかったの?
自分の部活ほっぽりだして何しに来てんのよ。
アタシと違ってまだ追い掛ける夢があんだから、こんなとこでうつつ抜かしてんじゃないわよ。


「…悪いけど、帰ってくれる?1人で泣きたい気分なの。そばにいるのが優しさとか思ってるんならおーまちがいよ」

「こちとらお前の気持ちなんてどーでもいいんだよ。お前が1人で泣いてんのが気に食わねぇんだよ」

「…………」

「ムカつくんだよ。強がってるお前が」

「……ずいぶん勝手ね」

「何とでも言え」

「…………」







ダメだ、また泣きそう。

泣き叫びたい。

悔しい。悲しい。
もっともっと、みんなと演奏したかった。
楽器吹きたかった。
もう、あの仲間たちとステージに立つことは、ない。

アタシたちの夏は、終わってしまった。


ぎりぎりと音がなりそうなほどに楽器ケースを握り締めて、涙をこらえていた。
蛭魔、アンタは優しい。余計泣きたくなる。だからお願いだから早くどっか行ってよ。









「……お疲れさん」







…ああ、もう、バカ。



ポツリ。
そう呟いた蛭魔の言葉で、抑えていた涙が封を切ったようにぼろぼろと溢れ始めた。
ああ、せっかく何とかこらえてたのに。

アタシは楽器ケースを握り締めて、それこそ子供のように声を上げて泣いた。
隣の蛭魔は何もせず、ただただそこに静かに座っていた。
抱き締めたり、安っぽい言葉を寄越さない彼の優しさが、余計にアタシの涙に拍車をかけた。
どこまで優しいのよ、アンタは。



アンタはちゃんと、そのクリスマスなんたらとか言うのに行きなさいよ。
アタシの分も、なんて押し付けがましいこと言わないから、自分の為に頑張んなさいよ。

そうじゃなきゃ、承知しないんだから。




end

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