0126!〈2〉





兄ちゃんが結婚する────。

いつだって俺たち兄弟にとって、頭(ヘッド)であり、ラスボスであり、最強の存在だった…あの自分勝手な兄ちゃんが…。


「ジャイアンなのに…。」

「ジローの考えることわかんねぇよな。」


ジローっつーのが、その兄ちゃんの結婚相手だ。
兄ちゃんと同い年で(でも若く見える)、兄ちゃんと一緒でテニスしてて(でも寝てるの見る方が多い)、兄ちゃんとよく甘いお菓子を食べてる(でもポッキーがすきらしい)、東京の人(でも神奈川によくいる)だ。
ちなみに男である。
ジローは俺たち兄弟とマジで仲が良くて、実はマジで丸井家の子供なんじゃないかなと疑い始めた矢先のことだった。


「俺ら結婚すっから。」

「結婚しま〜す!」


ジローが、マジでリアルに義兄弟になることになった。
ジローのことが嫌とかそんなんはなくて、むしろこれからも一緒に家族として過ごせるんで嬉しいはずなんだけど、何なんだろうか、この腑に落ちない感じは。


「俺だったらあんなジャイアンとは結婚したくねぇな〜。」

「俺も!」


学校からの帰り道が一緒になった弟と二人で兄ちゃんの結婚について語る。
しかしまさかこんな話をする日が来るなんて想像もしてなかった。
子供の俺らにはとりあえず、結婚、と言われてもよくわからないことの方が大きい。
だけどひとつわかるのはこの事だけだ。


「あんな旦那、絶対苦労するぜぃ、ジローが。」

「手に負えねぇよ、きっと。」


二人ではぁ、とため息をついてトボトボと帰路を歩く。
ジローが可哀想だな、なんて思いながら。

「なにが手に負えねぇの?」


急に声をかけられて、俺は口から心臓が出そうになった。
声のした方、後方を振り返ると、そこには声から思った通りの人物が笑顔で立っていた。


「ジロー!」

「ジローだ!」

「よっ。」


よっ。じゃねぇよ!
びっくりしたー。


「ジロー何で?」

「おめぇらに会いに来てやったんだC〜。喜べ〜?」

「マジ?」


マジマジ!って答えるジローの顔はいつも相変わらず掴めない表情で、ほんと何考えてんのかわかんない。
ホントに俺らに会いに来てくれたんだったら嬉しいけどさ。
多分それはおまけなんだってコトを俺は知ってる。


「ウソばっかー!兄ちゃんに会いに来たんだろ?」

「そうなのか?ジロー。」

「まぁね〜、ラブラブだからね〜。」


そんな風にケロっと言われると返す言葉もねぇんだけど。


「つか式のさ、いろいろ話とか〜、あと引っ越しの話とか〜。丸井くんだけじゃなくておめぇさんらやおめぇさんらの父さん母さんにも関係あるからね〜。」


今日はそのために来たんだC〜ってはにかんだ笑顔でジローは言った。
だからおめぇらに会いに来たってのは間違いじゃねぇべ?って。

なんでこんなイイ人がうちのあんな最低兄ちゃんと結婚なんかするんだろう。
勿体なくないか?


「ジロー、ほんとにうちの兄ちゃんでいいの?」

「え?」


思わず口から出てしまった、俺がずっと抱えていた疑問。
ジローも珍しくきょとんとした顔をしている。
でもすぐ後にいつもの太陽みたいな明るい笑顔になって、笑いながら答えてくれた。


「いいに決まってるCー!」


むしろ丸井ブン太じゃなきゃだめなんだ!
って、俺は初めてジローからこんな破滅的な大惚気を聞いてしまった。

これからは俺たちと同じ『丸井』になるからよろしくなって。


丸井慈郎か…。

悪くないなって、今度は素直にそう思えることができた。
それはきっとジローが笑ってくれたからなんじゃないかなって俺は思った。





〈2〉丸井家次男坊。





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