めいん

□リクエスト
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11月25日



「…何であんたがここに居んの?」


目の前に現れたオレンジ頭で笑顔の男に、リョーマは目を見開いて呟いた。
11月25日、日曜日。
世間は三連休の最終日で、どこもかしこもお休みモードだ。
しかし、ここ青春学園では休日でも構わず練習を行っている部活動がある。
それが、リョーマの所属するテニス部だった。
全国区に入るレベルのテニス部にとって、休日練習は当然で、部員も誰一人として文句を言わずに練習に打ち込む。
日曜日のこの日。
朝から夕方まで練習に励んだリョーマは、これから帰宅して家でもう一練習しようと、他の部員よりも早めに学校の門を出たところだった。
空はすっかり茜色から夜の闇色へと変化していく最中だ。


「越前くんじゃん!あれ?もう帰っちゃうの?!」
「…もうって、もう夜っスよ。何か用スか?」
「え?!じゃあもう練習終わっちゃったのー?!あーっ、一足遅かった!」


リョーマの前で嘆くオレンジ色の頭。
彼は山吹中テニス部三年、エースの千石清純だ。
山吹中テニス部だって全国区なはずで、しかも千石は山吹のエースだ。
そんな男が、何故こんな所に?とリョーマは疑問に思う。


「そりゃ残念っスね。」
「うん、でもま、越前くんに会えたからラッキーかも♪」
「は?」


千石は事あるごとにラッキーラッキーと連呼する。
何がホントにラッキーで、どれが冗談で言っているのか、リョーマには掴みきれない。
今のだって、何故自分に会えてラッキーなのかわからなかった。
そうやって"?"マークを頭上に浮かべているリョーマの元に、先程まで部室にいた先輩達がやってきた。


「あれ?山吹の千石じゃない。」
「ホントだ。どうしたんだい?」
「越前に用か?」


やってきたのは不二、河村、乾の三人で、早速青学に居るのが珍しい人物、千石に話し掛ける。
千石もそんな三人に笑顔でニコニコと答えるのだった。


「いや〜、伴じぃから青学の偵察してこいって言われたんだけど…。」
「え?練習ならもう終わったよ。」
「今日じゃないと駄目だったのかい?」
「あはは、そうなんだよ、不二くん。今日までにって言われてて。」


先輩達の会話の中に入っていくこともできず、リョーマはその様子を見ているだけだった。
そのうち、オレいなくてもいいじゃん。と気付き、帰ろうと動きはじめた。
一応挨拶を、と声を出そうとした瞬間、リョーマと同じく黙っていた乾がその口を開いた。


「お前も災難だな、千石。今日は確か誕生日じゃなかったか?」


その一言に、リョーマの足は止まってしまった。
不二や河村も、え?そうなの?と驚いた様子で乾と千石を見比べる。


「さっすが乾くん!そうなんだよ〜、今日実は誕生日なんだよねー。」
「こんな日にわざわざウチまでくるなんて、山吹のエースも大変だな。」


千石は相変わらずヘラヘラと笑っていて、そんな彼を見ているとリョーマはなんとなくイライラした。
不二や河村はおめでとうと千石に言うと、ありがとー、と更にヘラヘラ笑っている。
あんた、ホントに何しに来たんだよ。と、リョーマは心の中でひとりごちた。
帰るタイミングも失って、リョーマはそこに立っているしかなかった。


「あ、越前くんは僕のこと祝ってくれないのー?」


いつもの軽い調子でそう言う千石に、機嫌を損ねているリョーマは、ふい、と視線を逸らす。
それを見ていた不二と河村は、あーあ、また越前は。素直じゃないなぁ。と顔を見合わせた。
千石本人はというと、表情こそは笑顔なものの、どことなく悲しそうだ。


「あらー?」


これはまずいかな?と感じた乾はその頭脳を駆使し、機転を利かす。


「…あ、不二、河村。早くしないと店が閉まるぞ。」
「え?」
「あ、そうだね。ホラ、タカさん、ガットがゆるんできたって言ってたじゃない。」


乾の計らいに気付いた不二は、河村に目で合図を送り、最初は状況を飲み込めなかった河村もそれに気付いて、あぁ、そうだったね!と言って二人に便乗した。


「じゃあ、僕らはこれで。」
「じゃあね、千石。越前も!」
「よい誕生日を…。」


そうして三人はその場からさっさと退散してしまった。
残されたのは、笑顔で手を振る千石と、下を向いたままのリョーマだけ。
リョーマのことが気になった千石はちら、とリョーマの方を盗み見た。
すると、リョーマがぽつりと言葉をもらした。


「…あんた、今日誕生日だったんだ。」


小さな声で吐き出された言葉だったけれど、千石は決して聞き逃さなかった。
落ち着いた様子で、今までのヘラヘラとした笑顔とは違う、ちょっと困ったような、でも優しい笑顔を浮かべて、うん。と答えた。


「オレ、知らなかったから…。」
「うん?」
「だから、何も用意してない。」


用意してない、というのは、きっと誕生日プレゼントのことだろう。
千石はそう言うリョーマを見て、しまった。と思った。


「別に今日じゃなくてもよかったんでしょ?偵察。」
「あ…いや、今日までに、だったからね…」
「別にアンタが来なくても良かったんだろ?でも今日、アンタがここに来た。」
「…うん。」
「…来てくれたのに、…ごめん。」


その一言がリョーマにとって最大の素直になった一言だった。
もちろん千石は、プレゼントや祝いを期待して青学にやって来たのではないだろう。
ただ、なんとなく。
リョーマは千石が自分に会うために来てくれたような気がして、とても申し訳ない気持ちになってしまったのだ。


「なんで越前くんが謝ってんの?!僕気にしてないし、ネ?!」
「オレが気に食わないっス。」


そう言ってリョーマは自分の手持ちの荷物をがさがさと漁り始めた。
千石は自分のために行動しているリョーマを見て、自然と優しい眼差しを送る。
思えば、自分がいけなかった。と千石は思う。
ホントは偵察なんて二の次だった。
しかも当初、偵察へは南と壇くんが赴く予定だったのに、千石が無理矢理代わってもらったのだった。
それもこれも、千石の想い人で今目の前にいるリョーマに会うため。
この日を選んだのは、やっぱり誕生日だから一目でも彼に会いたいと思ったからで…。


「…何もないけど。今あるのは飲みかけのファンタくらいかな…。」


残念そうに下を向くリョーマの手にはファンタの缶。
千石は咄嗟にその手を掴んだ。


「じ、じゃあコレ!ちょーだい!」
「え…。」
「あー…、変態ポイかな?あはは。」


人の飲みかけのジュースが欲しいだなんて、ちょっと変態ポイか?と思ったものの、リョーマの好きなファンタで、しかも間接チューができると考えた千石にはこれ以上ないプレゼントのような気がした。


「…まぁ、アンタが欲しいなら、別にいいけど…。」
「ホントー?ありがとうー!!」


心の底から嬉しそうなその笑顔に、御礼を言われたリョーマは顔を赤く染めた。
千石はというと、まさかホントにもらえるとは思っていなかったので、二重の喜びが湧き上がる。


「…ホントにそんなのでいいんスか?」
「うん。ありがとう。…ぶっちゃけ越前くんに会えただけですごいプレゼントだったんだけどね。」


最後の一言に、リョーマは更に顔を赤くする。
まったく、この人は。とリョーマは複雑な表情で千石を睨むように見つめた。
嬉しそうに「いただきまーす」とリョーマがあげたファンタを口にする千石を見て、リョーマはふと、行動に出た。
辺りには誰もいない、静かな暗闇の中で、千石がファンタを飲み込むごくりという音と同時に、ちゅ、という可愛らしい音が響いた。
千石は、口に炭酸の刺激が広がるのと同時に感じた、その頬に当たった柔らかな感触に意識を全て持っていかれた。
その感触が与えられた方をゆっくりと振り向くと、千石をじっと見つめて不敵な笑みを浮かべたリョーマの顔がすぐ傍にあった。
しかし、その彼の顔は真っ赤で、生意気なくせに可愛らしい。


「呆気に取られた顔。…マヌケ。」
「…え、」
「今度は、アンタの番だからね。」


そう言い捨てて、リョーマは千石に背を向けて歩き出した。
後ろから見ると耳だけが赤い。
千石の胸にはリョーマに対しての愛しさが込み上げてくる。
そして、名残惜しそうにリョーマに尋ねた。


「それって、どういう意味?!」
「来月、オレ誕生日なんス。一ヶ月後、楽しみにしてるよ。それじゃあまた、Happy birthday!」


振り向いて千石に答えたリョーマの顔はどこか嬉しそうで。
発音のやたらイイ祝いの言葉と共に、リョーマは再び背を向けて歩いて行く。
千石は、すごいプレゼントをもらってしまった、と頬に手を当てたままぼーっとする思考の中で考えた。
自分がもらった以上にリョーマがもらって喜ぶものなんて思いつかない。
気付くと、彼の背中はもう見えないくらいの遠くにあった。


「ハードル高いよ、越前くん。」


そしてもう一度、もらったファンタを一口飲んで、千石はほてる顔の熱がこのファンタで下がらないかな、と到底無理なことを考えるのだった。






END


あとがき

リョウ様お待たせ致しました!
300Hitキリリクの千リョでございます。
キヨ誕に合わせてキヨにプレゼントをあげるリョーマくん。
キヨはきっとリョーマくんになら何をもらっても嬉しいんだと思います。
リョーマくんやキヨのキャラが掴みきれずすみません。汗
お気に召していただけましたでしょうか?

ダメ出しやリテイク、返品等はいつでも受け付けています。

ありがとうございました!





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