めいん

□芥川慈郎という男
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【向日】



「くそくそ!ジローのやつッ!」


オレは、今からレギュラー同士で打ち合いをするからペアを作るように、と言われて、じゃんけんに負けた。
何のじゃんけんだったのかというと、コレだ。


「ジロー!お・き・ろー!」


芥川慈郎は、いつも練習の合間を見つけては、寝心地のいい居場所を求めて姿を消してしまう。
(そして捜すのもまた一苦労なのだ。)
まぁ、簡単に言ってしまえばそれってサボりなんだけど。
ただ、ジローの場合は許される。
それはやっぱり、それなりの実力がジローにあるからなんだ。
オレだって、よくわかってるぜ?
でもなんか、うん。
悔しいっていうか、どこか腑に落ちないよな。


「あー…?ん?がっくん…?」


寝ぼけてやがるな、こいつ。
オレはジローの肩をがっしり掴み、更に前後に揺さ振って再び眠りにつかないように声をかけた。


「寝ーるーなー!これからレギュラー同士で打ち合いだとよ!ジローの相手はオレ!わかったらとっとと起きやがれ…!」


すると、ジローはぴくりと反応する。
あ、覚醒した。


「マジマジ?!やるCーッ!がっくんが相手とかめちゃんこ燃えるCーッ!!」


どうやらスイッチが入ったようだ。
ジローは起き上がってオレの腕をぐいぐい引っ張る。
正直、素で痛い。


「がっくん早く早くー!!」
「わかった、わかったから!おま、手離せっ!痛いんだよ!」
「がっくんがっくん、ムーンサルトやってよね!間近で見れんの、マジ興奮するCー!!」


ジローは興奮するととにかくウルサイ。
オレだって、知ってるよ。
ジローはテニスが大好きで、純粋ですっげーイイ奴だ、って。


「くそくそ、ジロー!調子がいいのは今のうちだぜ?オレがお前泣かしてやるからな!」
「あー?おれだって負ける気ねぇC〜!」


ジローはいつでも本気を喜ぶ。
でもそれはジローだけじゃなくてオレも一緒だ。
マジになって、楽しそうにテニスをやってるジローを見ると、こっちまで楽しくなってくる。
オレは早く早くとオレの腕を引っ張るジローの手を、逆に掴み返してやった。
お、びっくりした顔してるぜ、ジローの奴!
オレはジローの腕を引っ張りながら、他のレギュラー達のいるコートへと歩き出した。


「そんならさっさと勝負だぜ、ジロー!」

振り向いてそう言ってやると、ジローは満面の笑みを浮かべて、うん!と頷いた。
何だかオレも嬉しくなって顔がにやける。
気がつくと、二人とも小走りになって、そのうちだんだんと全速力で走り出した。

芥川慈郎はオレのチームメイトで、ダチで、ライバルだ!

その後、コートで本当の試合さながらに打ち合い(という名目の真剣勝負)をしていたら、跡部に一喝された。
オレのムーンサルトで興奮していたジローが一気に不機嫌になって大変だったけど、それに困った跡部も見れたし、楽しかったからまぁいっか!





【向日】


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