めいん

□芥川慈郎という男
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【滝】


部活が終わった後の部室内で繰り広げられる抗争。
でも君は、そんな中に居ても眠り続けているんだね。

芥川慈郎は、そんな男。


「だから、何で止めるんだよ!」
「何でって…どう考えてもあかんやん!」


いつものように、何か悪戯を企んでる岳人の横で、保護者のようにそれを阻止する忍足。
なんだか忍足、顔が真っ青になっちゃって…可哀相。


「いいだろ、ジローが起きる頃にここにオレ等が居なかったら問題ないじゃん!」
「あかん!あかんよ、がっくん!お前はあのジローの恐ろしさを知らんねん!」
「はぁ?!何ゆってんの?ジローが怖いとか、お前それでも男か…?!中3か…?!」
「男やし中3やけど…!」


俺には忍足は中3には見えないけど。
どうやら岳人はその片手に持っているピンク色のマジックで、ジローの顔に落書きでもするつもりらしい。
それにしてもこれだけ騒いでても起きないなんて、ジローもやるねー。


「あーもー!てめーらうるせーんだよっ!!」


鳳とダブルスのフォーメーションについて話合いをしていた宍戸の方が反応した。
そんな宍戸の声にもジローは無反応…。


「そんなこと言うなら宍戸、お前ゆーし抑えとけ!」
「がっくん!」


あくまでも自分の企みを遂行しようとする岳人に忍足もとうとう半泣き状態だ。


「お前ら…激ダサだな。」


本当に。
宍戸も俺も呆れ気味だよ、気付こうよ。


「大体な、俺は寝てる慈郎に何かやろうってのは気に入らねぇ!」


宍戸、お前、漢だよ。


「そやでぇ、がっくん!寝起きのジロちゃんはむっちゃ怖いねんで?それに長いこと根に持つタイプやからなぁ…。」


普段のポーカーフェイスが見るも無惨な表情に…ぷぷ、何か笑えるんだけど。


「はぁ?何言ってんだよ忍足。俺はただ慈郎に手ぇ出すなっつってるだけだぞ?」
「へ?」
「…ゆーし、ジローのこと怖がってんの、お前くらいなんじゃないの?」
「……!!」


どうやら図星のようだよ、岳人。
俺もそう思うもん。


「あ、跡部部長!」


黙って(というか、苦笑いで?)様子を見ていた鳳が跡部(と樺地)の入室にいち早く気付いた。
部長は大変だね、跡部。
だけど、そんな跡部をもスルーして騒ぎ続ける三人。
(約一名放心状態。笑)
君ら強者だねー。


「とにかく!慈郎に何かしやがったら、俺が許さねぇからな!」
「おいおい宍戸〜、どんだけ過保護なんだよ!」


全くだ。
ま、俺は見てて楽しいからどっちでもいいんだけど。


「アーン?お前らさっきから何ギャアギャア騒いでやがる?」
「あ、跡部。」


ようやく跡部の存在に気付いたらしい。
可哀相に、跡部。
でも本人はスルーされてたことすら気付いてないんだからどっちもどっちだよね!


「跡部、岳人のやつ止めてくれよ。」
「アーン?向日、また悪戯か?」
「ちょっと慈郎に…面白いんだからいいだろー?」
「駄目だ!」


出たよ出たよ、跡部のやつジロー溺愛してるからね、宍戸以上に。
だけど岳人も負けてはいない。
(どんだけ悪戯っ子なの!)


「けっ!こうなったら強行突破だぜ!」


ソファで横になっているジローに馬乗りになり、いざその顔目掛けて岳人はペンを持っている自分の片手を振り上げた。


「ぎゃー!がっくんやめてー!!」
「おい!!手ぇ出すなー!」
「ちっ、向日!!」


その動作に、後ろで半ば困った様子で見守る後輩達をよそに三人は三者三様の悲鳴をあげた。


「うるさい。」


今までの騒ぎの中、目を覚ますことのなかったジローが、ようやく起きた。
で、最初の言葉がこれだ。
ん〜、やるねー。


「…がっくん。」
「あ、はい。」
「重い。どいて?」
「あ、はい。」


…何て言うか、うん。
鶴の一声?


「りょーちゃん。」
「ん?何だジロー。」
「枕とってー。」
「おらよ。」


こっちはこっちで見事に使われてるし。
しかし宍戸、照れながらも嬉しそうだね、お前。


「あとべー。」
「アン?」
「帰るとき起こしてね?」
「当たり前だ。」


そうだよね、いつも二人(と樺地)は一緒に登下校だものね。
跡部ん家の車で…!


「おしたりー。」
「なんやの?ジロちゃん??」


ようやく自分が声をかけてもらって、めちゃくちゃ笑顔になっている忍足。
ポーカーフェイスが売りじゃなかったわけ?
鼻の下、のびてますけど。


「キモい。」
「……!!!」


あー…。
これはもう立ち直れないねぇ。
忍足撃沈、と。


「かばじ、チョタ、ぴよ、…滝。」


なんだい?ジロー。


「おやすみなさい。」


はい、おやすみ。
その幸せそうな笑顔、周り(特に忍足。)とのギャップが最高だよ。


「あ〜ぁ、もうやめやめ!」


岳人はペンを放り投げ、帰り支度を始める。
跡部も他の部員に早く帰宅するよう促し、自分も着替え始めた。
宍戸は何事もなかったかのように、鳳との打ち合わせを再開し、日吉に至っては早々と部室を出ていった。
忍足ただ一人が、固まったまま。
哀れだね。

結局、うちの部でジローに逆らえるやつなんていないんだよ。
つまりは最強。


芥川慈郎は、そんな男。



【滝】


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