めいん
□芥川慈郎という男
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【宍戸】
「りょーちゃん。」
「おう。」
俺は、慈郎のことならわからないことはないと自負している。
「りょーちゃん。」
「ん。」
昔っからいつも一緒で、幼馴染みというやつで、でもその辺の幼馴染みとはちょっと違う、そんな特別な関係。
「りょーちゃん。」
「はいはい。」
今日は日曜日。
学校も部活もない俺達は慈郎の家でぐーたらしていた。
一緒に飯食ったり、ゲームしたり、漫画読んだり、昼寝したり。
この何でもない一時が俺にとって寛げる時間であり、当たり前の日常だ。
「りょーちゃん。」
「おら。」
俺達は会話という会話は特にしない。
どちらかが何らかの話題を振らない限り、お互いがお互いをわかっている証拠で名前と相槌だけで大抵済んでしまう。
まぁ、そのほとんどが慈郎が俺に何かして欲しいときなんだが。
今の間にも、俺は名前を呼ばれただけでゲームに参戦したり、食べてた菓子を渡したり、膝枕したり、タオルケットをかけてやったりした。
普通のやつなら、名前を呼ばれただけで何をしてほしいか、なんてわからねぇだろ?だけど俺はわかる。
慈郎のことなら。
「亮ちゃん。」
「…ん?!」
「……。」
「……。」
少しの間、沈黙が流れる。
何故かというと、今の呼び掛けの意図がわからなかったからだ。
おかしい、慈郎のことでわからないことなんてないのに。
わからない自分にショックだ…。
「あはは、ごめんごめん。今のわかんなかった?」
「あ、ああ。すまねぇ。」
きっとすごく変な顔をして俺は驚いていたんだろう。
慈郎は面白そうにくすくす笑っていた。
「ねぇ、亮ちゃん。キスして?」
……。
俺は慈郎のことならなんでもわかると思っていたが、とんだ勘違いだったようだ。
激ダサだな、俺は。
今この瞬間に、慈郎のことが一切わからなくなった。
「あ、固まった。」
「……。」
「もーいいよ、りょーちゃん。忘れて?おやすみ。」
なんだか頭ん中真っ白になっちまったが、忘れて?と言って俺に背を向けてベッドに潜った慈郎の小さな後ろ姿を見て、俺ははっと我にかえった。
慈郎のやつ、一種のスキンシップを求めてきたんじゃないのか?
それも、特別な。
それに気付いた俺は、考えるよりも先に行動していた。
俺は慈郎の肩をぐいと掴み、後ろを向いていた慈郎の体をこちらに向けた。
今度は慈郎の方が驚いた顔をしていたけど、俺はそんなことは気にしない。
ちゅ
少しだけ触れた唇と唇。
慈郎は目を見開いたまま、ただただ俺の顔を見ていた。
「亮ちゃん…。」
「なんだよ。」
「…ほっぺでよかったのに。」
「…っ!」
慈郎は顔を赤く染めていたが、今は俺の方が真っ赤になっている。
「でも亮ちゃんのふかーい愛がわかったからよかったC〜。」
そう言って幸せそうに笑う慈郎に俺はいつでも救われている。
「ねぇ、もういっかい。」
「しかたねぇなぁっ…!」
愛しい存在、それが慈郎。
【宍戸】