めいん

□芥川慈郎という男
5ページ/10ページ




【鳳】


ジロー先輩は、自由奔放。
それはまるで、野良猫のよう。
だけれどそんな野良猫は本当はとても高貴な猫。
何者にも干渉されず、侵食されず、自分に正直で、意志が強い。

それが、ジロー先輩。


「チョタって犬みたいだよなー。」
「へ?」


部室でこれから始まる部活の準備をしていると、ジロー先輩にそう声をかけられた。


「な、何言ってるんですか…!?」
「だってみんながそう言ってるCー。」
「…皆?」
「それにそのタオルとドリンク!宍戸のじゃん。」
「…あ。」


そう。
俺は今、自分の分と、そして宍戸さんの分のタオルとドリンクを準備していた。
でもそれはダブルスを組んでくれている先輩に対して、当然の行いだと俺は思っていたんだけど。


「チョタは宍戸が大好きだねー。」
「いや、その…はい。」
「正直でかっわE〜!」


可愛いジロー先輩に可愛いって言われると、とてつもなく複雑な気持ちになるんですが。


「宍戸のわんこだね!」
「…わんこ。」


笑顔でそう言ったかと思うと、ジロー先輩はお気に入りのソファでごろごろし始めた。
猫みたい。


「ジロー先輩、寝ちゃうんですか?」
「んー…ねないよー…。」


今にも眠ってしまいそうな声でそんなことを言われても説得力ありませんよ!


「起きてください〜、これから部活ですよ?跡部部長に怒られますよ?!」
「大丈夫〜、チョタは…気にすんな…て。」


途端に先輩は寝息をたてはじめてしまった。
おやすみ3秒なんて、俺には真似できない…。


「…俺が犬なら、ジロー先輩は猫ですね。」


ため息交じりに眠ってしまったジロー先輩に呟く。
人の気も知らないで。
後で部長と宍戸さんから怒られるの、この状況からして俺なんですけど。
ただ、この人だけは憎めないんだよなぁ。


「そうおもう?」
「えっ!」


起きてたんですか…!
まったく、本当に自由なひとだな。


「…からかってます?」
「ちげぇよー。ホラ、おれが寝てたらチョタがおこられるなーって思い出したの!」


自由で、気ままで、自分に正直。
だけどそれでも憎まれないよ。


だってジロー先輩は、他人のことをちゃんと考えてくれる人だから。




【鳳】


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ