めいん

□芥川慈郎という男
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【跡部】


芥川慈郎は、二番目の男だ。


「また跡部のやつ、一番かいな。」


あーん?
俺様が一番なのは至極当然の結果だろう?文句あるのかよ、クソ眼鏡。


「ちなみに跡部は今まで一位以外とったことないぜ。」
「…ほんま、憎らしい男やね。」
「はん、惚れんなよ!」
「誰がやねん!」


何だよ、冗談で言っただけだろうが。
忍足なんてこっちから願い下げだぜ。
大体、こんな中間テストの一つや二つでギャーギャー騒いでんじゃねぇよ。
女々しい奴め。


「はぁ、実家のおかんに報告すんの気が引けるわぁ。」
「アン?何故だ。忍足、てめぇ三位だろうが。」
「あんなぁ、女っちゅー生きもんは一番やないと納得せぇへんのやで、跡部。」
「…そうなのか?」
「…あながち間違いじゃねぇかもな。」


宍戸までそう言うならただのホラじゃねぇようだな。
(忍足のことは信用ならねぇ。)
しかし俺は母さんに順位について言われたことなんかねぇぞ?
きっと家庭が違えば色々変わってくるんだろうな。


「せやけど…二番はジロちゃんか。」
「お、慈郎の奴、今回は寝なかったんだな。」


当たり前だ。
散々寝るなと言ってあったんだ。
慈郎の名前が俺様の次にないなんてことはありえねぇ。


「ジロちゃん、俺らを油断させといて、いつも俺らより上を行っとるやんなぁ…あー小憎たらしい!」
「誰も油断なんかしてねぇよ。これがあいつの実力だろ?」


宍戸の言う通りだ。
現に俺は更にその上を行ってんだからよ。
それにしても、本当に女々しいな、忍足の奴。
…ウザいぜ。


「忍足。」
「なんやねん、跡部。」
「ウザい。」
「!」


はっきり言ってやったらスッキリしたぜ。
そんなふざけたやり取りをしていたら渦中のヤツがやって来た。


「あっれー?!忍足に宍戸にあとべー!三人揃って何やってんのー??」
「お、ジロー。見てみろよ、お前跡部の次だぜ?」
「えー、何々??あ、こないだのテストの順位かー。おーあとべおめぇまた一位なんか?!すげーっ!」


アン?当たり前だろうがよ。
俺を誰だと思ってやがる。


「ちゃんと約束守ったんだな、慈郎よ。」
「あー、うん。だって跡部…こえーもん。」
「フン、言ってくれるぜ。」


慈郎はいつも俺の言い付けをきちんと守る。
そして俺の望むとおり、必ず俺の後を追ってくる。
常に俺についてくる慈郎は、俺が先頭に居る限り常に二番目の男だ。


「あとべあとべー、ご褒美は?」
「仕方ねぇな、慈郎が約束守ったんだ。なら今度はこっちが守る番だよな。そうだろう、慈郎?」
「わーい!」

「跡部の奴、機嫌いいよな…。」
「なんや、別の意味で恐いわ。」
「…あいつ、気付いてねぇんだろうな。」
「?何がやねん、宍戸。」
「…、お前はわかんなくていいんだよ。」
「??」


試験結果は二位だし、テニスでもシングルス2。


「あとべ、部活遅刻すんなよ!こうなったら今日は思う存分勝負っしょ!」
「ばーか。メニューもきっちりこなせよ、慈郎。でないと相手してやらねぇぞ?アーン?」
「あー!言ったなあとべ!みてろよ、今日はおれが勝つっ!」
「はん、てめぇじゃ俺には勝てねぇよ!」

だってそうだろ?
一番はいつだって、この俺様だ。
慈郎は俺には勝てない。


「あとべはズルイ。」
「…どういう言い草だ、そりゃ。」
「ズルイよ、あとべ…。」


慈郎が右手をひらひらさせて俺のことを手招くので、俺は慈郎とのその距離を縮めた。
じっと俺の顔を見上げる慈郎。
睨んでるんだろうが、ちっとも怖くねぇぜ?
何かと思えば耳を引っ張られた。
何だ、耳打ちか…。


「(おれがあとべのことだいすきってしってるくせに!)」


小声で囁かれたその言葉に、俺は一瞬動揺したが、慈郎の奴にそれを知られたくなかったのですぐに隠した。


「ズルイだろ?!」


自信満々に強気で言ってくる慈郎に、俺は一泡噴かせてやることにした。


「じゃあ、お前は知らないだろうが、」
「ん?」
「俺はお前のことをお前が俺を大好きって言う以上に愛してるんだぜ!」
「!!」


慈郎は顔を真っ赤にした後、段々白く、そして青くなっていった。
カラフルなんだな、お前の顔は。


「あ、あああ、あと、べっ!こ、こここ廊下だよ??!」
「アーン?だから何だよ!」


慈郎の物分かりが悪いからはっきり教えてやったんだろう?
お前よりも俺の気持ちの方が上なんだよ!


「まる聞こえじゃん!」
「いいだろう、別に。」
「は、恥ずかCーっつーの!」


可愛い奴め、慈郎よ。


「もう、あとべには敵わねぇよ。」


慈郎がそう漏らした時、俺はああそうかと納得した。
ちょっと間抜けな気もしたが、俺様にそんなのは似合わないよな。
だから俺は自信満々に言うぜ!


「慈郎、俺は何番だ?」
「ん?テストはいつも一番だよね。」
「じゃあ他は?」
「テニスも一番だし、生徒会長だC〜。やっぱどこを取っても敵わねぇなー!」
「慈郎、お前の中で、俺は一番か?」
「あったりまえっしょ!」


なにいってんのあとべ〜!とヘラヘラ笑う慈郎。
俺はそんなお前に惚れてんだよ。


「じゃあ慈郎、お前は何番目だと思うよ?」
「え?おれ?うーん…おれはテスト二番でシングルス2だし、でも他は普通だC〜。わかんね、あとべの次だったら嬉Cーなぁ。」


はにかんだ笑顔が慈郎らしい。
でも俺が好きな慈郎の笑顔は、もっととびきりなやつだ。


「慈郎、お前は二番目の男だ。」
「え、ホント?!」
「ああ。だがしかしな…。」


嬉しそうに目を輝かせていた慈郎の瞳が微かに揺れた。
そんな悲しそうな顔をするなよ。
俺がみたい顔は、そんな顔じゃねぇんだからよ。
俺は慈郎を安心させようと思って、そのふわふわな金髪の頭に手を延ばし、くしゃくしゃと撫でてやった。
ここまでやってもまだわかんねぇのかよ、慈郎のやつは。
まぁ、俺様も今の今まで気がつかなかったんだから仕方ねぇか…。


「お前は、慈郎は俺様の一番なんだよ。」

慈郎はその大きな目をぱちぱちさせて、理解できていないのか俺の顔を見上げるばかりだ。


「え…?」
「わかったのかよ、アーン?」
「……。」


慈郎はしばらく沈黙した後、徐々にその顔(実際全身だったのかもしれない)を真っ赤にしていった。
ようやく俺の言った言葉の意味を理解したようだ。


「あ、とべ…っ。」
「何だよ。」
「恥ずかCーヤツ!」
「真っ赤な顔して言われても迫力ねぇんだよ、慈郎。」
「やっぱズルイ!」
「ふん、何とでも言え。」

「あとべ、」
「ん?」


「だいすき。」


愛してるぜ、慈郎。

芥川慈郎は、俺の一番の恋人だ。




【跡部】

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