めいん

□MとAの衝動
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人生、嫌なことばかりじゃないよ。

自分の望むしあわせを手に入れたとき、ひとって強くなれるんだね。

いつだって、君と居たい。



第3話



「え?いつから?」


忍足侑士はそのズレそうになった伊達眼鏡を抑えながら慈郎に聞いた。


「先週ぅー。」


最近なんだか慈郎がるんるんしとるなぁ。と思っていたら、突然慈郎が「おれ丸井くんと付き合いだしたんだー!」と暴露してきた。
一ヶ月前、突然沈没したかと思ったら、今度は急上昇で。
繊細なオレにはついて行かれへんわぁ。と忍足は目を丸くした。


「え??丸井って…立海のあの丸井?」
「そー。」
「え?この前喧嘩したゆうてたやん。」


そう、だから仲直りしたー。と、慈郎はなんの悪びれもなく言う。
そんな慈郎に、忍足は「あかん、ツッコミ間違えた。」と真顔でもらす。


「お前ら男同士やろ?付き合うってどんな意味?まさか恋人になったとか言わへんよね?!」


答えはわかっていたようなものだったが、忍足はその部分を確かめずにはいられなかった。


「恋人だよ?」


けろっと言ってのける慈郎を目の前に、忍足は暈を起こしそうになった。
どうやら、忍足はテニス部内でその事実を知った最後の人間だったらしく、慈郎はそのことを誰にも教えてもらえなかった忍足を知ってケラケラと笑い転げた。


「なんでオレにだけ黙っとくん?!イジメ、格好悪い!」
「イジメじゃねぇよ!おめぇも気付けよな〜。」


そりゃ慈郎のやつめっちゃわかりやすく浮上したけど、普段から感情の起伏が激しいんやからわかるわけないやん!と忍足は悪態をつきまくった。
しかも恋人になったなんて。
普通はおかしいという考えが先行するが、氷帝での慈郎の行動としては、あり、の部類に入る。
忍足は編入してきたため、付き合いが他よりも浅く(といっても二年目だが。)、その辺がいまいちわからないようだった。
ほかのレギュラー三年生達から言わせると「あの慈郎が昔から憧れてた丸井君だからなぁ。」らしい。

ただ、ある一人を除いて──。


「おい、てめぇら。休憩終わりだぞ、のろのろしてんな。」
「あ、跡部。」


慈郎は咄嗟に忍足の両頬を後ろから思い切りばちーんと叩くと、跡部に向かってすぐにいく、と言った。
忍足は突然のことに構えることもできず、もろにその痛みを喰らって悶えていた。


「─〜っ!何すんねん、ジロー!!」
「内緒。」
「は?」
「あとべには内緒だかんな!」
「え?なんで?」


跡部が去った後。
さっきまでの笑顔から一変、慈郎の顔は真剣に強張り、うまく理解できてない忍足にはついていけなかった。


「ほかのヤツらにも言わないでっていってある。あとべが知ったら何すっかわかんねぇし…。」


それはどういう意味なんやろか?
忍足は漠然と考えた。
あの俺様何様跡部様が人種差別をするようには見えないし(むしろ俺様以外皆平等!とか言いそう)、偏見だって持つとしたら凡人や平民とは違った見方だろう。
つまり世間一般人が気にするような物事だって跡部にしたら何でもないことだったりする。
そんな跡部が。
慈郎と丸井が付き合い始めたことを知ったくらいで何かしでかしたりするだろうか?


「ジロー!さっさと来やがれ!いつまでその眼鏡とダベってんだ!」
「ぅはーい!」


遠くから、慈郎を呼びつける跡部の声を聞いて、忍足は「あ。」と思った。


「そうか。」


昔からあの二人を知る人間なら、慈郎に言われるまでもなく跡部に打ち明けることが憚られるだろう。


「慈郎か。」

「…確かに、何やらかすかわからんなぁ。」


跡部の元に慈郎が駆け寄ったときの跡部の柔らかい表情を見て、忍足ははぁ、とため息と一緒に言葉をもらした。

(まさか、跡部も…?)

頭にふと浮かんだ考えに、いやいやと否定するよう忍足は頭を振る。
まさか。
それまでの考えを振り切るように忍足は立ち上がり、駆け出した。



──「あとべには、ちゃんとおれから話すから。」



去り際に慈郎が言った、その一言に。
忍足は胸の奥がざわつくのを感じた。

(なんも起こらんければええんやけど…。)

丸井と付き合い始めた慈郎は、どこか恐いモノを知らない子どものようで。
危ういような、脆いような、そんな印象を与える。
今の自分なら大丈夫、と、どこか買い被っているようで…。

(あかん、岳人に相談しよ…。)

一人でいつまでもぐるぐる考えていては埒が開かないと思い、今日はもう部活に専念することにした。

(…慈郎、人はもっと、弱いもんやで…?)

(自分も、他人も。)

(慈郎も、跡部も…。)




つづく


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