おだい
□うまい棒が買えるだろ
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うまい棒が買えるだろ
「まるいくーん!ポッキー!」
「おぅ。このカゴに入れろィ☆」
今日は土曜日。
芥川慈郎は神奈川県に来ていた。
何故ならこの日は、ここ神奈川にある立海大附属中学校で氷帝学園との練習試合が行われたから。
只今の時刻は17時48分。
集合と開始が早かったためか、この日の練習試合はいつもよりも早めに切り上げられた。
そして慈郎は、練習試合やその結果なんかよりも、実はこの一時を楽しみにしていた。
「まるいくんまるいくんっ!どーする?!いちまん円もあるからもう一つポッキー買ってもEかなあ…??!」
「待て待て、芥川!ちゃんと計算しろぃ?」
慈郎は練習試合をするとわかった日から前日(むしろ今朝方)まで、ずっと「まるいくんに会える♪」と騒ぎ立てていた。
その様を見てきた氷帝学園テニス部部長、跡部景吾は「これで丸井君とやらと菓子でも買いな!」とまるでおじいちゃんが孫に小遣いを与えるような感覚で慈郎に一万円札を手渡した。
それに歓喜したのはブン太で、ミーティングが終わると即効で慈郎と共に近くにある大型スーパーマーケットへ繰り出したのだ。
「おいおい、こりゃあちょっと買い過ぎじゃねぇか…?食べきれんのかよ…。」
「あ?お前誰に向かってそれ言ってんだよ、ジャッカル。」
その二人についてきたのはブン太のダブルスペアでもありパシリ(!)でもあるジャッカル桑原だ。
正確にいうと、無理矢理連れて来られた、かもしれないが。
「ま、まぁお前は、うん、まぁ食えるだろうな…うん。芥川、お前は大丈夫なのか?」
まるで保護者かなにかのように二人のことを気にかけるこの人は苦労人であるに違いない。
「おれは大丈夫!ジャックもなんかいるかー?」
「お、オレは遠慮しておく。」
「そう?あとで欲しくなってもしらねぇよ?」
一体自分は何故ここに一緒に連れて来られたのか、その疑問ばかりがジャッカルの頭を過ぎる。
しかし、その疑問もブン太の「(パシリなんだから)当然だろぃ?」の一言の前には、とても無駄なことに思えた。
「よーし、こんなもんかぁ??」
大型スーパー独特の大きなカートの籠の中はすでにお菓子でいっぱいになってしまっていた。
ジャッカルはその量にため息を零すしかなかった。
そして何より、こんなに買っても平気な金額をポンと慈郎に渡した跡部に対して、流石は金持ちは違うな、と感じるのだった。
よく考えれば自分の家は父親は無職だし裕福とは言えない。
「……。」
この菓子はほとんど全てブン太の胃におさまってしまうというのに。
そう考えると、何故だかジャッカルは無償に腹が立ってくるのだった。
「金持ちだもんな。」
ボソリと呟かれたジャッカルの言葉ははしゃぐ慈郎やブン太には聞こえない。
「計算できたぞ!」
「マジ?いちまん円になった??」
「おー。これ全部買ったら9,940円だ。」
「ぅわ〜っ、マジギリギリっ!」
ブン太が楽しそうに携帯の電卓画面を慈郎に提示しながら応えると、おれらスゲー!と慈郎はテンションを更に高くした。
「はやくレジ行こー!」
「だな!」
しかし、そんな二人を引き止める声がした。
「…待て。」
二人は自分達を引き止めたその珍しく低く響いた声にゆっくりそーっと振り返った。
だってその声の出所はアイツしかいないから…。
ブン太にいたっては、自分のせいでとうとうキレてしまったか?と不安すら覚えた。
「現在の合計金額をもう一度言ってみろ。」
「は?」
ジャッカルの発言に、ブン太はそう返す外思いつかなかった。
慈郎はジャックどした〜?と首を傾げながら、「きゅうせんきゅうひゃくよんじゅう円だよ。」と教えてあげた。
「で、所持金は?」
「…いちまん円。」
ブン太は眉間にしわを寄せながら二人の会話を聞く。
「もうレジに行っちまうのか?お前らは。」
「うん、だっておれこのいちまん円のほかに帰り賃以外もってねぇもん。」
「…そうじゃねぇだろっ!」
突然のジャッカルの叫び声に、二人はびくりと肩をすくませた。
「引き算しろよ、あと60円も残るんだぞ!」
伊達に貧乏はやってない。
ブン太や慈郎なんかより、自分は知恵を持っている。
節約生活、お手のもの。
あの跡部景吾の財産だ、使い切らねば一生の不覚…!
「まだ…うまい棒が買えるだろ!」
こうして三人は、無事に一万円を使い果たし、その後ジャッカルは慈郎に褒め崇められ、それに妬きもちを妬いたブン太によって制裁を加えられるのであった。
うまい棒が買えるだろ