おだい

□人生バラ色って感じ
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人生バラ色って感じ



いつもの練習が終わって、立海レギュラーメンバーはぞろぞろと部室へと戻ってきた。
ジャッカルは余程ブン太にこき使われたのか、いつも以上にぐったりしていた。
参謀の柳と副部長の真田は、部活が終わったというのにまだ練習について話し合っている。
柳生と幸村は楽しそうに雑談していたのだが、柳生にちょっかいを出して邪魔をする仁王に、幸村も苦笑するしかなかった。

赤也は真っ先に自分のロッカーを開き、先程の練習でかいた汗によってぐしゃぐしゃになったユニフォームを脱ぎ散らかすと、自分のシャツをもったまま「あ。」と思い出したように声をあげた。
隣のロッカーを開き着替えようとしていたブン太は、そんな赤也にどうした?と声をかけた。


「そういや、丸井先輩。氷帝の芥川さんと付き合ってるってホントっすか?」

「…は?」


突然の赤也の発言に、部室内の人々はそれぞれの動作を停止させ凍りついた。
とくに顔を真っ青にさせて固まったのは、ほかでもなくブン太の世話役(?)のジャッカルだった。


「…なんで?」

「…や、なんか聞いたんで。ホントかな〜?って。」


それを聞いたブン太は無言でジャッカルを睨みつけ、ジャッカルは変な汗をだらだらと流し始めた。


「(ジャッカルてめぇ…。)」

「(すすすすすまねぇ…!)」


ジャッカルも悪気があって言ったわけではない。
赤也の方が、一枚上手だったという話である。


「…ま、隠そうとも思わねぇし。別にいいけど。」

「え!じゃあマジなんすか?!」


赤也はその好奇心から、ブン太の隠そうともしない態度に更に食い付く。
周りはブン太がキレてしまわないか、内心ハラハラしながら見守る。(特にジャッカル。)


「えーっ、男と付き合って何が楽しいんスか?」


一番危険と思われる質問をズバッと発言した赤也をジャッカルは冷汗を流しながら見つめる。
赤也め…怨んでやる!と、あとでとばっちりを受けるであろう彼は心に決めた。
みんながあえて触れなかった男同士の交際について。
しかしジャッカル以外の面々は逆にこれはブン太の意見を聞く貴重なチャンスかもしれない…と静かに聞き耳を立てている。


「赤也、お前馬鹿だろぃ。」

「えー?」


ブン太はジャッカルの予想外にも、かなり落ち着いた様子で赤也に語り始めた。
ブン太は性格こそお気楽でお調子者、自由気ままでマイペースだが、こういった場面での態度は意外と大人で、特に赤也のような後輩の前ではきっちりと先輩としての役目を果たす人間だった。
赤也の問いにも先輩らしく、きっちり答える。


「男とかそんなん、関係ねぇだろぃ?」


関係ない。
ブン太の男気発言に、周囲の誰しもが集中した。


「え、でも…。」

「俺は女だからとか男だからとかで慈郎が好きなんじゃねぇし。そんなんだったら付き合ってねぇだろぃ?」


ブン太のはっきりした回答に、今まで静かに聞いていた周りの部員達も、納得したかのように今までの動作に戻っていった。
柳生はまぁそうでしょうね、と言って帰り支度を始め、柳はいいデータがとれたよ、と言い練習メニュー見直しのため真田と共に部室をあとにした。


「じゃあブン太は芥川君自身が好きってことか。」

「単に男色って訳ではなかったんじゃの。」


こういう色恋沙汰をからかうのが大好きな幸村と仁王は、赤也に便乗して更にブン太の話にに食い付いた。
赤也は完璧に聞き役に徹し、しかしイマイチ納得できていないようだ。
ジャッカルはその場に立ち尽くすだけだった。


「でも俺、それすごい疑問があるんスけど。」

「何だよ。」

「男と付き合うって、結局何するんスか?」


またこいつは…!
お前何も知らないお子様か!と、ジャッカルはヒヤヒヤする。
幸村と仁王は、赤也の質問を予期していたのかにこにこニヤニヤとブン太と赤也を見つめていた。


「何するの?ブン太。」

「知りたいのォ。」


ブン太はからかう二人にちょっとうんざり、といった様子だ。
幸村くんはまだ可愛いげがあるにしろ、仁王に至っては本気で張り倒したい、と思った。


「だってー、友達と遊ぶのとあんま変わんないでしょ?」

「…気持ちが違うだろうがよ。」


ブン太はため息交じりに赤也の問いに答える。
この際他の奴は無視だ、というように。


「気持ち?」

「そうだよ。俺、慈郎には友情じゃなくて恋愛感情抱いてるからな?」

「はぁ。」

「友達じゃなくて。慈郎という存在が愛しいわけ!わかるか?」

「……、うーん。」


ブン太の言うことを赤也はうまく理解できず、唸りながら黙り込んでしまった。
幸村や仁王は、あ、やばい…と思ったものの、今更身を引くこともできずおとなしくしている。


「じゃあお前、男友達の寝てる顔見て可愛いなぁコイツ、とかって思ったりするか?」

「いや絶対ないっス。」

「パフェ食べてる横でその口にキスしたいなぁ、なんて考えたりするか??」

「げ!キモ…!」

「そういう気持ちの違いだろぃ?」


例えのように語られているが、全てブン太自身の話だろうということがわかってしまっている幸村と仁王、そしてジャッカルは、またかよ…とひきつり笑顔を浮かべる。

「(赤也、お前が悪い…。)」

「(また惚気じゃ…。)」

「(気付よっ!赤也ーッ!)」


三人の視線でのアピールも空しく、ブン太は赤也に語り続ける。


「赤也にはわかんねぇと思うけど、俺はそういう感情を慈郎に対して持ってるわけ。慈郎はその辺の女なんかより全然可愛いしよ。ま、俺が好きになった相手なんだから当然だけど。しかも俺のこと大好きってところがまた可愛いよなぁ…、あーもう!慈郎に会いてぇ…!」

「………。」


赤也はぽかんとしているだけで、ブン太に何も言い返すことができなかった。


「おい!赤也てめぇ聞いてんのかコラ!」

「ハイ!」


三人は知っていた。
こうなるとブン太は止まらない。


「…餌食になってしまったね、赤也のヤツ。」

「いや、幸村。ちょっと俺らも危ういかもしれん。」

「…え?」


コソコソと横で三人が会話していると、「お前らも聞いてんのか?喋ってないでこっち来い、今から慈郎と俺の愛の軌跡を語ってやっから!」とブン太が割って入ってきた。
どうせなら夜の事情を聞かせてくれよ、と言った幸村を外し、仁王とジャッカルはまんまと赤也の道連れにされてしまった。
一生懸命に話す丸井は可愛いんじゃがのぅ…と半ば諦めている仁王に対し、俺もう何万回も聞いたゼ、その話…とジャッカルは灰になるのであった。
こんなことなら聞くんじゃなかった。と、自分のシャツを握り締めたままの赤也は後悔し、遠い氷帝にいる慈郎が助けに来てくれないかなぁという考えが、そろそろブン太に洗脳、汚染されてきた思考より生まれた。


「慈郎のおかげで人生バラ色って感じ!」

「「「(すごい惚気だ…!)」」」



その後。
帰ろうとした柳生、外から戻ってきた柳と真田も巻き込まれ、部室の明かりは一向に消えなかった。
幸村ただ一人が、その日無事に帰路についたのだった。







人生バラ色って感じ

 

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