少年タケル!!

□武琉冒険記
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2001年夏。8月の半ば、オレはひどく退屈していた。アルバイトも無く、やりたいゲームも無い。かと言って、一緒に街を歩く彼女も居ない。もっとも、意中の相手は先輩に取られたようなものだった…。

『つまんねぇなぁ、どっか行きてぇな。』

オレの言う『どっか』とは、街ではない。仙台や郡山、東京ディズニーランド等、若者の社交場は全く眼中に無かった。普通の人が行かないような、どこか遠く、皆が驚くような所に行きたかった。

『…。』

また地図帳を広げる。ここの所、毎日閉じたり開いたりしているので、折れ目はボロボロ、セロハンテープで補強してある地図帳だ。地図帳自体は中学で配られた物だが、ここまで読み込んで地図帳をボロボロにした奴はオレだけに違いない。とにかく退屈を紛らわす為、女への未練を断つ為、オレは旅立つ場所を探し始めた。地図帳を指でなぞる。

『…よし、決めた。』

出発の準備を終えたオレは、母に告げた。

『ちょっと山形行ってくるよ。』

『…はぁ!?』

予想通りの返事だ。いつだって母はオレの発言に驚いてくれる。これならクラスの友達も驚くだろう。間違いない。話のネタ一つゲットだな。さて、今回の旅の中身はどんなものになるのか!
時間は午前11時。今回の目的地は山形の『峠駅』だが、街では無く、山の中だ。峠駅は名物『力餅』を売っている売店以外、数軒の民家しかない。早く行きたいと思いつつも、もっと正確な地図帳とカメラのフィルムを買いに出掛けた。それから午後12時に自転車で庭坂駅へと移動した。家から最寄りの駅は『笹木野駅』なのだが、経費削減の為にわざわざ移動したのだ。移動時間、約20分。そして、30円節約。意味はあったのだろうか?とにかく、微妙な結果に首をかしげながらも、『庭坂駅』に辿り着いた。しかし、時刻表を見て唖然とした。次の電車まで1時間も待たなければならないのだ。時間を確認しなかったのは自分のミスだが、落ち込んでも仕方ない。駅周辺を探索する事にした。…和菓子屋で『粟まんじゅう』を買い、駅前の公園に戻る。無駄な体力は使いたくないので、すぐに戻った。公園のベンチに座り、まんじゅうを食べる。若者らしくない自分に気付く…。向こう側のベンチに座っている女子中学生2人が、こっちを見て笑っているように見える。…そりゃ笑うわな。まんじゅうを食べ終わった頃、ヘロヘロなアブラゼミが飛んで来て、足元に落ちた。

『…。』

広い上げ、羽根のスジを見る。黄色い。皆、知らないと思うが、アブラゼミの羽根のスジを見る事で、寿命が分かるのだ。成虫にう化してからは、黄緑色なのだが、生命の終わりが近付く頃には黄色くなるのだ。すなわち、このセミはもうすぐ…。

『痛だッ!!』

半死半生のハズのセミが、オレの手を刺した。木の皮に穴を空けるというストロー状の口は鋭く、とても痛かった。『痛てぇな!!』勢い良く飛ぶセミ。勝手にセミに騙された感じだ…。セミをいたわったのに。思わず大声を出した事を思い出し、辺りを見る。あの女子中学生はきっとオレを嘲笑っているだろう…。

『…居ない。』

大声を出した上に辺りをキョロキョロ見回す。端から見れば充分変人じゃないか…。ふいに屈辱と孤独がオレを襲う。そんなこんなで、電車の時間が近付いて来た。その前にトイレだ。田舎の駅のトイレは汚いイメージがある。また、大の方の便所は『ぼったん』である可能性が高い。小を済ませ、用も無く大の扉を開ける。

『………ッ!!』

期待通りというか、これは強烈だ。確かにぼったんではあるが、穴が見当たらない。ブツが溢れ出ていて、山になっていたのだ。蟲もスゴイ。今思えば幻とか見間違いだったかもしれないが、トイレを見て絶句したのは確かだった。オレは確かに見た。幻だったとしても、神様にはもっと夢のある幻を見せてもらえるようにリクエストしたい。セミに刺され、溢れてる便所を見て、オレは電車に飛び乗った。次にこの電車を降りる時、目の前には見た事も無いフィールドが広がっているんだ!
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