幾つもの夢
□君の名前をまるで祈りのようにつぶやく
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「君の名前をまるで祈りのようにつぶやく」(お題)
ver:TAKAYA ABE
あたしは不器用だ。
「よー、おめー今暇だろ?これ運ぶのに手伝ってくれ」
後ろからかけられた声で、胸の中の奥の奥のほうがドキリとする。
深く、甘くてでも低い大きなその声。
隆也くん。
決して、本人に直接はそう呼べない、心の中の呼び名。
段ボールの山をいくつか抱えた西浦野球部副キャプテンにして、キャッチャーである彼がいた。
その何気ない鋭いまなざしの先に、まぎれもなく自分がいて。
「ああ、うん。いいよ」
あたしは不器用だ。
可愛くないフツーのセリフまわし。
小首をかしげるなんて真似も、似合わない。出来ない。
しゃがんで、隆也くんの足元にあったひとつの段ボールを持ち上げる。
「重くねーか?」
「平気」
思いがけなく話せる好機なのに、表情ひとつかわりゃしない。
恥らって赤くなるとか、そんなオンナノコではないから。