オールジャンル花言葉夢

□我が最強のアルストロメリア
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そこで、

いかがわしいお店じゃないから働きなさい、自分の力で立ち上がっておいで、とホステスだかキャバ嬢だかわからない仕事をしている。


夜の仕事に必要な、接客の笑顔も、会話も、

私はしない。

ただ、座る。


そして気がむけば話を聞く。


それで月に何百万と金が入る。


それは私が家族をなくした理由において。


私が家族の命を奪った理由において。



不愉快になると、断り無く私は席を立てる。

勝手に休みもとれる。


美咲ママは文句を言わない。

そんな態度でも私の指名客だけで売り上げが潤っているから。


どれだけ銀座の女としての態度を示さなくても、私にはストーカーが家族を殺してくるだけの見てくれがあるがために。



ーーーねえ、出勤前にうちでご飯たべてかない?



そう、同僚のあかりに言われて行きも送りもタクシーなことを条件に、

行くことを呑んだのは奇跡だった。

銀座の中に入って唯一の特権が黒服という名の、
店を守る男達。

つまり、銀座にいる限り私にいれあげて逆上する、とかストーカーにまでなる、などという人間が出来なくなった。

−−−皮肉にも。



畢竟、あのとき家族が命を落して守った私の命は、

夜の世界に守られている。


そうして、そこで出会ったのが、

桐山零ーーーーー私の、”弟”。



勿論、血の繋がりなんかない。

ただ、そのときあかりの家でなごやかな食卓の中、

異分子である私と零は出会い、

そのとき互いが異分子であることを嗅ぎ取った。




この空間が、居心地が悪い。

いや、心の底では懐かしくて、悲しくて、

もう二度と手に入らなくて。


零の目と、私の目が交差して、
深い事情を言わずして同じ傷をもつ身と認識した。


その後、何度かあかりの家で会い、
零が棋士であることを店で知り、
なんとなく、

苦しくも懐かしいその家の傍へと引っ越すと、同じマンションの同じ階に零が居た。
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