オールジャンル花言葉夢

□3月のレンゲ
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胃が、軋むように痛む。



闘って、闘って、先の見えない道をもがくように、暗い田舎道をただ必死に、


この、のたうつ胃を道連れにつき進む。





時に、何故オレは盤上にしがみついてこの闘いを終わらせないのか、理由さえ見失いながら、



ただ、必死にもがくように闘っていた。




彼女との出会いは、後藤との力勝負に疲労困憊し、獅子王戦の挑戦者権を手に入れた時点で力尽きそうになっていたときだった。




名無しさんの素顔に対面したものは、例外なくその表面に心を乱されるというが、

桐山のあねだと名乗る、その彼女のその目は、
たとえどれだけ見た目が似ていなくても

桐山が宿す影ととてもよく似ていて、



桐山が家族を失くしていたことは知っていた。

幸田さんの家に引き取られ、桐山が幸田さんの実子を追い抜いたしまった実力から家の中が軋んでいることも。


だから、”あね”と聞いても幸田さんの娘さんだとは思わなかった。


ーーーーーーーああ、そうか。

君らはよく、似ている。だから、きょうだいなのか、と。

不思議と納得した。


そして、彼女が夜の銀座の頂点に咲くことも知らないオレは、


彼女の、ふるさとの匂い、ふるさとの味、懐かしいじんちゃんとばあちゃんを思い出させるその故郷の香りに


抱きしめられて、あれほど暴れていたオレの胃が静まったのを感じた。


ーーーーーーーなんで、見失ったりなどしていたんだろう。

勝負の世界にオレもまた、足を掴まれ惑わされ、

背負っているものを忘れるなんて。




どんな効き目の早い胃薬よりも、ただ彼女を抱きしめているだけでオレの軋み、悲鳴をあげる胃は穏やかな世界へ落ち着いた。


獅子王戦の前後、宗谷というバケモノに頭をとらわれたオレは、ごく自然に名無しさんを求めた。




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