〜花に導かれて〜
□Act.1―白戸薫―
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「白戸様…白戸薫様…」
誰かが俺の事を呼んでいる。俺はゆっくりと目を開けた。
「…誰?」
「はじめまして。万屋です。立てますか?」
そう名乗りふわりと笑う。どうやら俺は倒れていたらしい。それよりも…
「近くない?…顔」
あっ。と小さく洩らし視界から消えた。
「申し訳ございません」
体を起こすと横にしゃがんでいるはずの…
「万屋?」
白のシャツに赤の棒ネクタイを蝶々に結び黒のベストに黒のズボン。そして腰に巻くタイプの黒いエプロン姿。
「はい。万屋ですがどうか致しましたか?もしかしてどこか痛い部分でも?」
「あ、いやそうじゃなくて…喫茶店のウエイターとかではなくて」
「万屋です。そんなにおかしいでしょうか?」
うーん…と悩みだす。
ここはどこなのだろうか。そう思い辺りを見渡す。
どこかの河原のようなのだが見た事のない場所だった。川には橋が架かっているが霧が出ていて反対側はどうなっているかわからない。
「ここ、どこ?」
とりあえずと万屋に声を掛けたがまだ、うーん…と唸りながら服装について考えていた。
「あの!」
「はい!申し訳ございません!!」
少し強めに呼び掛けると勢いの良い返事が返って来た。
「ここはどこ?」
もう一度繰り返す。
「ここは境界の河原です。お話すると長くなりますので私の店に行きましょう。…よっ!」
万屋は腰を上げパンパンとズボンのほこりを払う。
「さあ、行きましょう。お渡ししなければいけないものもありますので」
動かない俺を見て
「大丈夫ですよ?取って食おうだなんて思っていませんから」
ふわりと笑う。そして、失礼しますと俺の腕を掴み無理矢理立たされた。腕を掴んだまま俺を引っ張るように万屋は歩き出す。
「俺、行くって言ってない」
「来ていただかない事にはどうにもなりません。嫌でしたら振り払って逃げてくださって構いませんので」
万屋が手の力を抜いたのがわかった。
ああは言ったもののここがどこかわからない以上一緒に行くしか選択がない。
それに、一瞬、ほんの一瞬空気が変わった様に感じた。それが何となく一緒に行かなければとさらに強く思わせ俺は黙って着いていくことしかできなかった。
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