〜花に導かれて〜
□Act.1―白戸薫―
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万屋に連れられて辿り着いた場所は、俺の住んでいる町だった。
なんだ、心配することはなかったのだと思うと自然と肩の力が抜けた。
「見た感じは同じかもしれませんがここは白戸様の住んでいた町ではありません」
俺がほっと息を吐いたのがわかったのか万屋に言われた。
シンデレラが出てきそうな城の形をした図書館、公園にあるイカの形をした遊具。すべて同じ。どこが違うというのだろうか。
「この道はご存じありませんよね?」
本当にタイミングがいいなと思わず関心してしまう。
確かにこんな脇道は知らない。毎日歩いている大通り。そこに並ぶ本屋と美容院の間に小さな脇道が出来ていた。
俺の知らない場所―
そう思うとまた体に力が入った。
「この世界は白戸様の記憶でつくられています。見たもの触れたもの聞いたもの…すべてで成り立っています」
そう説明しながら脇道を進んで行く。
「俺の記憶で出来ているならどうして俺の知らない道がある?会ったこともないあんたがいる?」
万屋の後を歩きながら思ったことをそのまま口にする。知らない場所への恐怖を消すためだったのかもしれない。
「それは…
万屋に不可能なし、らしいです。
あ、着きました」
話を逸らすなと言いたかったはずなのに目の前の建物に驚き言葉にならなかった。
木造の建物は所々板がめくれていたりささくれている。建物につたも絡まっていた。
入口らしき所には『よろず屋 雪の雫』と書かれた看板が申し訳程度に立ててあった。
「…ぼろい」
思わず呟いてしまった。
「古い建物ですが崩れたりしないのでご安心ください」
「あ…いや、すみません」
反射的に謝ると万屋は一瞬きょとんとしたがすぐにふわりと笑い「さあ、どうぞ」と中に促された。
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