Kiss your Eye
□kiss-04
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テレビの中で歌っている私達を見て何の言葉も交わさずに、ただボーとそれを見ている。
まだ、実感なんかなくて。変な感じ。
「俺らデビューしたんだよな」
『そう、だよね』
「実感ねぇなー」
信紅も同じみたいで、同様にテレビをぼーと見ている。
暫くしてチャイムが聞こえた。
「誰だよ」
『はいはーい』
不機嫌になった信紅を無視してドアを開ける。基本的に信紅は訪問者が来ると不機嫌になる。(多分椿さんとかロクな人が来ないからだ)
「オリコン1位おめでとさん♪」
『あゆむ!?』
立っていたのは予想外の人だった。
赤に近い茶色の髪が後ろで括られていて(ほとんど結ばれてない)、奥二重の目を細めて笑う、キスアイ寮のケーキ屋さんだ。
私より1つ上なだけなのに、単体で大阪から修行に来ている凄い人だ。
「これお祝いなー」
『え、…1位?』
「そうや。今日付けの丁度見たんや」
『……ええぇぇえ!?ちょっ、信紅!!』
信じられなくて、信紅に走り寄り、肩を思いっきり揺らす。
いやいや1位って……まさかっ!!
「おいっ!揺らしすぎだ」
『あっごめん!って信紅信じられる?』
「…この人嘘つくのか」
『…?、ぅわっ!』
「うわって…傷つくわ〜」
『いや、近くて驚いただけだから。あゆむは嘘つかないよな?』
「当たり前やろ。勝手に上がったんはお前がコレ忘れたからや」
『ケーキ!!』
「…相変わらずやなぁ」
あゆむは目をキラキラさせている私に、嬉しそうにそう言った。
ここは男しか居ないから、稀に見るケーキ好きな男に会えて嬉しいと以前あゆむが言っていた。
女だから…とは言えない。私以外だと社長が好きなんだって。そりゃそうだろうね。社長があゆむをスカウトしたんだから。
「信紅、やっけ?お前にも」
私にチーズケーキを渡した後、信紅にも箱を差し出す。
信紅は甘いものが苦手なんだけど……
「俺、」
「甘いの苦手なんやろ?安心せい、カカオ90%のチョコしか使ってへんから」
『新作?』
「というよりはこいつ特製。春人にはちと苦いと思う」
「……ありがとうございます」
「礼なんていらへん。いつもお前の相棒には癒されてるし。ま、ついでや。ついで!早よ食ってみ?」
『オレもあゆむのケーキには癒されてるぜっ』
「ケーキだけ?」
『もちろんあゆむも!』
「…食える」
勢いに乗って抱きついてしまいそうになったが、ギリギリで踏みとどまると隣でボソッと声がした。
「食えるって何やねん!」
『そーだそーだ素直に美味いって言え!』
「食えなくはない」
「下がってるやんけ!」
怒鳴るあゆむを『まあまあ』と宥めて、帰るように促した。
『お礼にサイン付きCD渡すから、今日は帰って?』
「ぬ〜…もう二度と来ん!!」
『待てあゆむっ!オレ追いかけてくる』
荒々しいドアの音が聞こえたから、急いでCD数枚ひっつかむと慌てて後を追った。