Cake

□Orange Cake
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12月だというのに、その日はとても暖かい日だった。
後ろで仲間の騒ぐ声が聞こえたけれど、コートなどを羽織る気は無かった。

芝の上にごろりと寝転ぶ。
暖かな日差しが頬を照らす。
ぬくぬくとした心地好さに、悠理は大きく口を開けた。
零れる息はあまりに眠そうで、ころんと一つ寝返りを打った。
半身に降り注ぐ暖かさと草のにおい。
徐々に落ちていく瞼に逆らわずに、ゆっくりと目を閉じた。































どれだけの時間が経ったのだろう。
頬を撫でる風の冷たさに、悠理は眠い目を擦った。
ボーっとする頭で空を眺めると、先程までの暖かな日差しは消え、
代わりに西の空は真っ赤な夕焼けに染まっていた。

「うわ〜、きれいだな」

思わず呟いた声に、クスリと誰かの笑う声が聞こえた。
向いていた方と反対の方向に顔を向ければ、くすくすと苦笑する顔が一つ。
足を組み、手には分厚い本を持ったまま悠理を眺めている。

「…せぇしろ?」

まだ半分寝ている頭で、その人物の名を呼ぶ。
呂律が回っていないせいか、あまりにも幼いその呼び方に、
清四郎は困ったように目を細めた。

「何ですか?」
「いや、なんでお前…」
「悠理を迎えに来たんですよ」

悠理の言葉を全て聞く前に、清四郎が答える。
寝ぼけた恋人の頭を撫でながら告げるその声は、あまりに優しく。
いつもと違う清四郎の声に、悠理は満足そうに微笑んだ。
ぺたんと倒れこむように清四郎の足に頭を乗せる。
くすくすと笑いながらのその行動は、悪戯を企んだ子供のようで。
清四郎は小さく息を吐くと、自分の膝に乗せられたその頭を優しく撫でた。

瞬間、くしゅんと音を立てて悠理がくしゃみをした。
寒さに震える身体に、清四郎は彼女の足元に転がるコートを手繰り寄せる。

「あれ?これ…」
「掛けてあったんですが、さっき悠理が起きた瞬間に落としたんですよ」

そう言って再び悠理の上にコートを掛ける。
悠理のものとは違う大きな黒いコート。
掛けられたコートの袖に悠理は自分の腕を通してみるけれど、袖口まで手は届かない。
大きなコート。
何故だかそれがとてもくすぐったくて、悠理は清四郎の膝に顔を埋めた。

「どうしたんですか?」
「別に、どうもしない」

問う声に、くすくすと笑いながら返事をする。
そんな悠理の様子に清四郎は困ったように微笑むと、
自分の膝の上の悠理を静かに見つめた。



日差しの暖かさは消えてしまっていたけれど、悠理の心はとても温かかった。



終。

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