Cake

□Chocolate
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すっかり日が暮れてしまったせいか、学園を出ると空気は冷たいというよりも痛い程だった。
手にしていたマフラーを首に巻き、悠理は道を歩き出す。
名輪を呼ぼうと思っていたけれど、朝、百合子の為に車を出すと言っていたのを思い出した。
真っ暗な道を通り過ぎ、少し広い通りへと出る。
通りには犬の散歩をしている人、家へ帰るサラリーマンなど、様々な人の姿が見えた。
ゴソゴソとポケットの中からチョコレートを取り出す。
包み紙をはがすと、口の中に放り込む。
少し苦味のきいた甘さが口の中に広がった。
腕を組んだカップルが楽しそうに笑い声を上げながら、悠理の脇を通り過ぎる。
何故だかそれが無性に悲しくて、悠理は静かに息を吐き出した。



「ばかやろ…」



消え入る程に小さな声。
苦々しく呟かれたその声は、どこか寂しそうで。
悠理は自分の声を自嘲するかのように笑った。
口の中で溶けるチョコレートが、とても苦く感じた。

























「誰が馬鹿なんですか?」
「…清四郎?」

背中に掛かった声に振り返ると、すました清四郎の顔。
いる筈の無いその姿に、悠理は思わず首を左右に振った。

「な、何でお前がここにいるんだよ?!」
「そろそろ補習も終わった頃だろうと思いましてね、悠理を迎えに来たんですよ」

当然とでも言うかのような清四郎の顔。
あまりに余裕のその顔に、悠理はムッとする。

「迎えに来るくらいなら最初っから待ってりゃ良かったろ!
なのに、先に帰るとか言いやがって…」
「当たり前です。僕が待っていれば悠理は自力で問題を解かないでしょう?
自分の力でやらなくては、身につくものも身につきませんからね。
全ては悠理の為、という事ですか」

そう言う顔は、あまりにも意地悪で。
けれど頭の上に置かれた手は、とても優しいものだった。
悠理の髪の間に滑り込む指。
そのまま悠理の髪を絡めるように動かすと、そのまま優しく撫でる。

「さ、行きますよ」

頭を撫でていた手は悠理の小さな手を掴むと、自分のコートのポケットへ引き入れる。
そのままの状態で、清四郎は歩みを進める。
コートの中の手は離れる事は無く、悠理もそのまま足を進める。
繋がれた手が、とても温かい。
それが何故だかとても恥ずかしくて、
悠理はごまかすようにポケットの中のチョコレートを口に放り込んだ。
先程までの苦さは、全く感じなかった。



「ど、どこに行くんだよ!」
「どこかに寄り道でも…と言いたいところですが、悠理を連れて帰ってくるように
言われているんですよ。今日は、鍋のようですからね。冷えた身体も温まりますよ。」
「清四郎の家に行くのか?」
「えぇ、その後は僕と今日のおさらいですかね。少しは理解できているか確かめてあげますよ」
「確かめなくて良いっ!」



終。

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