Cake

□waffle ball
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目の前にあるのは幸福そうな顔。
口いっぱいに頬張って食べる姿は、まるで餌付けされたハムスターのようで。
動物みたいだと思ってはいたけれど、ここまで来ると笑う事しか出来なかった。

「…ンだよ」

不満そうな顔。
僕が不意に笑い出した事が気に入らなかったのだろう。
眉は訝しげに顰められていて、見つめる瞳は恨めしいものに変わっていた。

「別に何でもありませんよ」
「ぜったい、うそだっ!」

当たり障りの無い答えを返せば、間髪入れずに否定する。



…全く、そんなに力強く否定しなくても。



「本当に何でもありませんよ」

もう一度強く否定してやるけれど、目の前の悠理の顔は
相も変わらず不満そうで。
挙句の果てには、フンっと鼻を鳴らしそっぽを向いてしまう。

「どうせ、またろくでもないコト考えてたんだろ。
あたいが動物みたいだとか、意地汚いとか…」

そう言いながらも、悠理の手は休まる事を知らないのか
先程と何ら変わりなくフォークを口に運んでいる。



…自分で思っているなら、少しは気をつけるとか考えないんですかねぇ。



そう心の中で呟くけれど、浮かんだその言葉に強く首を振る。
目の前の人物は、良く言えば天真爛漫。
悪く言えば、…単細胞。
単純で、救いようの無い程の馬鹿で、けれど、










―――素直で、明るい。










それは彼女に与えられた天からの贈り物。
欠点と言えなくは無いけれど、それならばその欠点は誰かが補ってやれば良い。
崩れ落ちそうな程に弱いものならば、それを包むものを用意すれば済むだけの話だ。

そっぽを向いた顔がちらりと僕を掠め見る。
不意に合わさった視線に驚いたのか、悠理は更に顔を背けるけれど
ふわふわの髪の奥に見える耳が、林檎のように赤かった。

笑みが零れる。
自分でも分かる程に、顔が緩む。
口端に上った笑みを隠すかのように頬杖をつくと、
ソーサーに置いてあったスプーンを取ると、悠理のケーキに手を伸ばす。

あ、という悠理の声。
口の中に入れたクリームは、思っていた以上に甘かった。



終。

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