目が覚めた時、一瞬何が起きたのか分からなかった。
確かにパーティー会場にいた筈なのに、いつの間に帰ってきたのだろう。
悠理は見覚えのあるベッドを眺めながら、静かに首を傾けた。
もそもそとベッドの中から抜け出そうと身体を動かして、
漸く、身動きが取り辛い事に気がついた。
何かに制限されたかのように、身体が言う事を聞かない。
この重苦しさの正体を探ろうと辺りを見渡した。



「!?」



不意に、視線が強張った。
いや、強張ったのは視線だけではない。
重苦しさを感じていた身体は、瞬間、石のように固まった。
首を動かそうにも、錆び付いたブリキのおもちゃのように、
ガチガチに固まって動かない。
口を開けて叫ぼうにも、何故だか咎められる気がして。
悠理は何もする事が出来なかった。

規則正しい寝息が聞こえる。
仰向けになったまま、寝返り一つ打たない彼の姿は
寝ているというのにあまりにも規則正しくて。
思わず悠理は眉を顰めたけれど、瞬間、その顔を和らげると
クスクスと小さく笑い声を立てた。



繋がれた手。



悠理が逃げ出すのを止めるかのように、
彼の手はしっかりと彼女の手を握り締めていて。

一切の乱れが無いと思っていた彼の姿にたった一箇所だけ、
その大きな手だけが、乱れていた。
悠理が腕を持ち上げれば、つられるように彼の手も上がる。
ぶんぶんと振り回せば、寝ている筈の彼の手も大きく揺れる。
皮肉なまでに整ったその涼しい顔とは大違いの、忙しさに満ちた手。
見た事も無い忙しさに満ちた姿が面白くて、悠理は何度も何度も手を振った。

























「…機嫌は直ったようですね」

不意に聞こえた声に、悠理の身体が飛び跳ねた。
驚いて振り返れば、呆れたような清四郎の顔。
けれど、その顔はどこか優しげに微笑んでいて。
悠理は何となく居心地の悪さを感じてしまう。

掴まれた手に力がこもる。
さっきよりも力強く掴まれて目の前の清四郎を見れば、

「もう手を振るのは止めたんですか?」

なんて涼しげに問う声。
その声が何だか悔しくて、悠理は放り投げるように手を振った。
けれど、しっかり握られた手は離れる気配は無く、
二人の繋がれた手が大きくしなるだけだ。

「放せよ」
「嫌です」

短い命令に、短い拒否。
あまりに素っ気無い清四郎の返答に、悠理は頬を膨らませると
もう一度強く腕を振った。
ブンブンと音を立てるけれど、一向に清四郎の手が離れる気配は無く。
振り回した腕の音だけが、部屋の中に響いた。



悠理が腕を振る。
つられるように揺れる清四郎の腕。
離そうとしても離れなくて、
ブンブンと大きな音が、ただ響く。
ふと目の前の顔を見れば、静かに笑う清四郎の顔。
その顔はいつものような皮肉に満ちたものではなくて、
心から嬉しそうな、優しげな顔だった。

「…何、笑ってんだよ」

問えば、「そうですね…」と声がして。
それから、

「悠理が愛しいからでしょうか」

と言葉を繋いだ。
見る見る間に、悠理の顔が赤くなる。
真っ赤に燃えたその顔は、着ているドレスとは違った鮮やかな赤で。
清四郎は、その顔に向かって笑みを深くした。

手が揺れる。
ブンブンと大きく振られた手は、まるでしっぽのようで。
清四郎は繋がれた手を引き寄せると、悠理の身体をすっぽりと
自分の腕の中に包み込んだ。

「せいしろ?」

恐る恐る自分の名を呼ぶ悠理に、清四郎は静かに返事をすると
「何度でも言いますよ」と、口を開いた。





「悠理、僕と婚約して下さい。僕は悠理の傍にいたいんです」





はっきりと告げる言葉。

その言葉は、目の前の悠理に向けられたもので。

優しい笑みを湛えた顔。

その瞳に映るのは、紛れもない悠理の顔だけで。
悠理は掴まれた腕に目を落とすと、自分の手に力を込めた。

「悠理?」

問う清四郎に目を向けると、ぷいっと顔を背ける。
それから、ゆっくりと口を開くと

「勝手にしろよ、それで気が済むならさ」

そう言った。



終。









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アトガキ

さてさて、皆様こんばんは♪
漸くUPの駄犬別Verでございますw
いやぁ、何を書きたかったのか覚えてない覚えてない(爆)
ただ、覚えてる事は清四郎を駄犬にしたかったってコトです。

さて、結果は…えぇと…ごめんなさいil||li _| ̄|● il||li
精進が必要ですー・゚・(ノД`)・゚・

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