Novel Oshitari×Atobe

□何もいらない
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ホワイトデーを三日前に控え、俺は重大な問題を抱えていた。
それは未だにお返しが決まっていないという事だ。
そもそもお返しが決まらないのは、跡部が超の付くお金持ちのお坊ちゃまだからだ。
何でも欲しい物は手に入り、持っていない物は無いと言っても過言ではないくらいの相手に、今更何をあげると言うんだ。
跡部が喜びそうな物をあげたいという気持ちはいっぱいあるのに、肝心の贈る物が無いのではどうしようもない。
そんな事を考えながら、俺はコートから出て休憩を取る。
俺がどんなに悩んでも、部活や学校は当たり前にあって、ゆっくり考える暇も無い。
俺は盛大な溜息を一つ吐いた。
「忍足先輩、どうかしたんですか?」
同じように休憩に入った鳳が声を掛けてくる。
「あ〜なんや、実はまだホワイトデーの返しが決まってないねん。せやからめっさ困っとるわけや」
こんな事跡部の耳にでも入ったら大事だ。
散々バレンタインを催促しておいて、ホワイトデーが無いとはどういう事だと詰られる事は明白だ。
それこそ俺からの愛を疑われかねない。
「気難しそうですもんね、跡部先輩。こだわり派というか・・・」
コートでジローと遊んでいる跡部を目で追いながら。俺はもう一つ溜息を吐いた。
いっそ去年のように貰えなければ、こんなに悩む事はなかったのかもしれない。
しかしバレンタインに恋人からチョコを貰えないのも寂しい。
「参考までに聞くんやけど、自分宍戸から何貰うか知っとるんか?」
鳳だって結構なお坊ちゃんだったはずだ。
宍戸が何をあげるのか凄く興味の惹かれるところである。
鳳は満ち足りた笑顔を浮かべる。
「現物支給ですよ」
俺は思わず引きつった。
正直友達にそういう事を聞くのは抵抗があるし、色々と複雑な気持ちにさせられる。
「まぁ、間違いなく嬉しいもんやな」
しかし跡部に冗談が通じるとも思えないのが難しい。
「俺の参考にはならへんわ」
ふざけんなと怒られて、しばらくシカトが続くのだろう。
それだけは避けたい。
「そうだ、お菓子なんてどうですか?」
鳳は次の案をくれるが、俺はまたしても悩む。
「あいつがその辺で買ったような菓子食う思うか?あいつの為に取り寄せしよったらホワイトデー終わってまうわ」
大体どんなお菓子が好きなのか俺は知らない。
あいつの好きな物は俺にはついていけないから、大抵跡部に俺の好みに合わせてもらっていた。
「手作りしてみてはどうですか?」
確かにホワイトデーにはキャンディとか、クッキーを贈る習慣があるが、果たして俺に作れるか?
「菓子作りなんて難しいんちゃうんか」
量ったり、焼いたり、冷やしたり、ねかしたり、考えただけでごちゃごちゃしていそうだ。
「そんな事ないですよ?クッキーとか無難にできますし」
今のところ何も決まっていない以上、手作り菓子が一番まともな案ではある。
跡部の為に頑張ってみるか。
「ほな、頑張ってみるわ。あ、レシピ書いてくれへんか?」
鳳はよく宍戸にお菓子を作っているみたいだし、クッキーの作り方くらいなら知っているだろう。
「良いっすよ。任せてください」
俺はよしと立ち上がる。
「贈る物も決まったし、練習せなな。そろそろ怒られるわ」
俺たちはまたコートへと戻った。

ホワイトデーは前日。
俺はクッキーの材料を揃え、作り始めたが砂糖の分量の多さに少し驚いた。
「クッキーってこない砂糖入ってたんか・・・」
俺はとりあえずレシピ通りに作っていく。
混ぜたり、こねたり。ねかしたり。
中々に手間のかかるものだ。
鳳曰く、ケーキなんかよりよっぽど楽だと言っていたが、俺にはクッキーでも充分な手間だと思う。

まぁ、これも全ては跡部のためだ。
そう思えば苦でもない。
生地が出来上がり、俺は型を考える。
「やっぱりハートか?」
とりあえず星とハートにしてみた。
型を抜き終わると、オーブンで焼いていく。
その間にラッピングの用意をし焼けるのを待つ。

暫くして焼き上がったクッキーを取り出し、ラッピングをかけていく。
跡部に喜んで貰えるようにとか。
跡部に思いが伝わるようにとか。
リボンを結んでいく度に思いを込めていく。
女の子が好きな人の為にお菓子を作るのが楽しい気持ちが、何となくわかったような気がする。
明日が楽しみだと鞄の隣にお菓子を置いた。
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