Novel Oshitari×Atobe

□opacity
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変わらない日常。
春から俺はこの輪の中にいない。
笑って宍戸や岳人、ジロー達と他愛ない会話をする事もなくなるんだ。
「ねぇ、跡部となんかあった?」
笑顔が凍り付くってこういう事を言うんだろう。
ジローの突拍子も無い一言に驚かされるのは良くある事だ。
何も見ていないようで、本質は誰よりも早く気付く。
俺はとにかく取り繕おうとする。
「何言い出すんかと思うたら…。嫌やわ、なんもないで? 変な事言いなや」
ジローは小首を傾げる。
「でも二人共おかしい気がするんだけどなぁ。跡部は元気もないし〜」
それは俺も気になっていた。
まだ何も言ってないし、バレても無いはずなのに。
いったいどうしたんだろうと思っていたんだ。
「なんもないて。そんなん俺が聞きたいわ」
寝不足もあながち嘘では無さそうだが、まったくのホントと言う訳でも無いだろう。
「二人が付き合い出してから、忍足の事以外で落ち込んだりしなくったよ。跡部は。やっぱり忍足なんかしたんでしょ?」
ジローは咎めるように俺を見る。
幼馴染みで跡部と一番仲の良いジローは、何時だってどんな時でも跡部の味方だ。
そして跡部もジローの味方である。
仲が良過ぎると言うか、なんとまぁ腹立たしい。
「仮に俺がなんやしてもうたとしてや、元気ないまま放置しとる訳ないやろ! ちゃあんと謝るなりして機嫌直すし」
今回は本当に心当たりが無い。
だから心配になるし、そんな状態の跡部に卒業したら実家に帰るからしばらく遠恋になるなんて言えない訳で。
色んな事が悪循環だ。
それにしてもここの所の跡部の様子は、確かに気になる。
何かあるのなら言ってくれれば良いのに。
そうは思うものの、跡部にも俺に言い難い何かがあるのかもしれない。
俺が中々言えないように、それなら深く聞き出すのも気が引ける。
あぁ本当にどうすれば良いんだろう。



教師に頼まれて、提出期限が今日までのプリントを集め、職員室まで持って来ていた。
プリントを渡す時、たまたまその先生の隣りの席が忍足の担任の席だった。
机の上に広げられたプリント類の中に、『合格通知』の文字。
中高一貫校では珍しいものだ。
誰だろうと名前を見て、俺は言葉を失う。
『忍足侑士』
どうして…。
何かの見間違いかと思った。
そんな話、何一つ聞いていない。
先延ばしにして来た別れ話の理由は、卒業したらいずれ離れるのだから、このまま黙っていれば良いと思っていたんだろうか?
卒業して学校が別になればそれで終りにするつもりだったのか?
俺達はその程度の関係だったのか?
怒りと悲しみで震えるのが解る。
「どうかしたのか? 跡部」
先生に声を掛けられ、我に返る。
「すみません。…あの、これ」
合格通知のプリントを見せると、あぁという顔をする。
「お前達は同じテニス部だったから、仲良かったんだな。じゃあ寂しくなるだろう、忍足は春から地元の高校に通うらしいから」
プリントを握り潰しそうになるのを堪えると、先生にそうですかと小さく返事し失礼しますと頭を下げその場を離れる。
職員室から出ると、忍足の教室へ一直線で向った。



お昼休み、岳人やジローと弁当を広げていた。
跡部と食べたいなと思う事もあったが、昼休みは大抵生徒会室でお仕事中で、一緒にお昼と言う雰囲気ではない。
まぁこの面子で食べるのに不服がある訳では無いから良いのだが。
「あ、跡部〜♪」
ジローが嬉しげに声を上げる。
しかしジローの声とは打って変わっての険しい表情の跡部だ。
釣り上がった柳眉から、そうとう不機嫌かつ怒っているのが傍目にも伺える。
ツカツカと歩み寄って来ると、有無をいわさず胸倉を掴まれ引き上げられると、そのまま拳で頬を殴られた。
俺は反動でイスに躓き、派手な音を発てて倒れた。
「ったぁ…。何すんねん!」
いくらなんでもいきなり殴り掛かってくるとは何事だ。
「俺は何も聞いてない」
事務的な言葉に、俺は眉を寄せる。
「俺は何にも聞いて無い! お前が…お前が他の高校受験してたなんて知らなかった!」
何事だと回りの生徒がこちらを見る。
岳人とジローも跡部の言葉に、困惑した顔で俺を見る。
「ちょお来い。落ち着いて話ししよか」
俺は立ち上がると跡部の腕を掴むと半ば強引に引っ張り、強制的に屋上へと連れて上がった。
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