Novel Oshitari×Atobe

□opacity
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屋上に着いて、誰もいない事を確認して向かい合う。
「それ、どこで聞いたん?」
友人知人合わせても、跡部の回りの人間は誰も知らないはずだ。
「職員室。たまたまお前んとこの担任の机の上にあったプリントに目がいったんだ。そしたらお前の名前と、外部校受験合格の文字が見えた」
淡々と喋る跡部の表情は、ほとんど無いに等しい。
「さよか。…言わなあかんとは思うてたんやけど、タイミングがな」
跡部は何も言わない。
俺は沈黙がこんなに苦しいモノだと初めて知った。
「聞いたんかも解らんけど、俺春には実家帰らなあかんねん」
跡部はやっぱり何も言わない。
「中々言えんかったのは、ほんまに悪いと思うとるけど、俺かてまだまだ餓鬼やから親の決定には逆らえんからな」
自活出来ない以上、ある程度の命令には従うしかない。
「俺とは卒業したら終りにするつもりだったのか?」
はぁ?と思わず眉を寄せた。
「自然消滅してしまえば良いと思ってたんじゃねぇのかよ?」
俺は呆気に取られ言葉を失う。
「別れたいなら別れたいってハッキリ言えば良いだろ!!」
俺は頭痛と目眩を感じ、大きな溜め息を吐いた。
「なんでそうなんねん…。俺が別れたいて思う理由が解らんわ」
好きで好きで、傷つけたくなくて先延ばしにしてきた話。
結果的には傷つけてしまったが。
何をどうすれば俺が別れたがっているように見えるのか。
「実家帰る話も、外部校受験の話も、全部事後報告だし。しかもお前から聞かされた訳じゃない。最近全然用がなけりゃ会いにも来ねぇし…」
もう俺の事なんか好きじゃないんだろっと、可愛い顔で抗議され、キュンと来る。
こんな事言うと跡部はますます怒りそうだが。
要するに跡部は、俺が言えずにためらっている間ずっと構って貰えなくて寂しかったのだろう。
普段迷惑とか邪魔とか邪険に扱われてばかりなだけに、こういう素直な一言が目茶苦茶嬉しい。
さすがに毎日顔を合わせる度に、何の用だと言われれば、迷惑だろうなと反省するし、忙しい時期は邪魔しちゃ悪いなぁとも思う訳で。
「俺は好きでも無くなった相手に、自然消滅するまで待てる程気ぃ長ないわ。気持ち冷めた時点でちゃんときっちり別れる」
跡部はまだ悄気た顔をしているから、俺は笑んでやる。
「しばらくは遠恋になると思うけど、休みの日は会いに来るし、連絡も毎日する。大学は絶対こっちの大学行くから、高校の3年間は寂しいの我慢してくれへん?」
跡部は釈然としないようだったが、納得してくれた。
「…もっと早く言ってくれれば、お前との時間無理してでも一杯作ったのに」
ムスッとした跡部に、俺は堪らず抱き締めた。
「ほんま好き過ぎてしゃあないわ! 何時かてお前を愛しとるから、安心しとってえぇで」
浮気したら殺してやると低く言われ、信用無いんやなぁと深く溜め息を吐いた。


寂しいのは君だけじゃない。
離れても君の温もりを忘れないように、一緒にいられるうちは、沢山愛させて欲しい。
君が俺を忘れてしまわないように、君に沢山俺を残していきたい。
不安なのはどちらも変わらないのだから。




──────────END
      (望月 白兎)
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