Novel Oshitari×Atobe

□The delicate feelings
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 忍足になにか気に障ることでもしてしまったのだろうか。
 矢張り男同士の恋愛なんて成立するのは無理な話だったのだろうか。
 二日目、三日目も忍足が相変わらず恋人らしい接触をしてこないから、今まで考えたこともない否定的な考えばかり頭に浮かんできてしまう。
 まだ付き合い始めて約半年。
 跡部にとっては初めての恋人と呼べる人で、恋の伊呂波を全く知らない跡部は何から何まで忍足にリードされてきた。
 自ら誘ったり求めたりしたことのない跡部には、忍足が触れてこないのなら自分から触ればいいという概念がなかったのだ。
 あったとしても、色恋沙汰にはてんで奥手な跡部には到底無理な話だっただろう。
 今晩でこの合宿所で宿泊するのも最後だ。
 そう思うと、合宿が終わって学校に戻った後にでも別れを切り出され兼ねないのではという、最悪な状況を脳裏に思い描いてしまった跡部。
 どんな風に別れを告げてくるのだろう……。
 冷たい目をして別れの言葉を淡々と告げる忍足を想像してしまった跡部の目尻から一筋の涙が零れ落ちて枕を濡らす。
 そうなると堰を切ったかのように涙が次から次へと溢れ出し、止まらなくなってしまい、涙を拭う為ベッドサイドのティッシュを取ろうと暗闇の中手を探れば、目的の物ではない物に当ってしまい派手な音を立ててしまう。
「跡部……?」
 しまったと思ったときには既に遅く、隣のベッドで寝ているはずの忍足に何事かと声を掛けられてしまう。
 ティッシュを取りたかっただけだと答えられればよかったのだが、話してしまうと泣いているのがわかってしまいそうで、黙りこくるしかなかった。
 だが、答えないのも不審がられてしまう。
「跡部?」
 本格的に体を起こして、二人のベッドの間にあるライトへと手を伸ばしてライトを付ける。
 柔らかい光だったが、暗闇に慣れきっていた瞳にはそれでも刺激が強すぎて二人して目を細める。
「……どないしたん?」
 やはり答えることなどできるはずもなく、忍足から顔を見られないように俯いたまま。
「……べ、つに」
 なんとか言葉を発してみたものの、そのとき既に遅し。
 ベッドのスプリングがギシリと弾んだ。
 忍足がこちらのベッドに腰を掛けて俯く跡部の顔を覗き込むようにするものだから、思わず忍足から泣き顔を見られないようにあからさまに顔を背けた。
 だが、そんな努力も空しく肩を抱かれて体ごと忍足の方へと向かされてしまい、二人の間に緊張が走る。忍足に跡部が泣いていたことがわかってしまったのだろう。
「……泣いてたん?」
 忍足の言葉にまた熱い涙が零れ落ちる。
「……うっ……っ」
 忍足に肩を抱かれて安堵したのか理由はわからなかったが、先程までは静かに涙を流すだけで済んでいたのに、箍が外れたかのように涙が次から次へと溢れてきて、声を上げて泣いてしまう。
「跡部……」
 跡部の肩に回していた腕に力を込めて更に忍足の方へと引き寄せて、跡部は忍足の胸へ顔を埋めて涙を零し続けた。
 突然の抱擁だったが、それはここ三日間ずっと跡部が求めていたものだった。
「跡部、どないしたん? 何で泣いてるん?」
 背中を優しく擦りながら、涙の原因を問う忍足の言葉に、忍足に預けきっていた体を強張らせる。
「放せっ」
 それまで大人しく忍足の腕に収まっていた跡部が、身を捩りその腕から抜け出そうとする。
「嫌や」
 何が原因で跡部が泣いているのかわからない今、そう簡単に跡部を自分の腕から解放するわけにはいかないと思った忍足は、逃げ出さないように両腕でしっかりと跡部を抱き締めた。
「てっめぇ……!」
 放してくれない忍足に苛立ちを露に涙目で睨み上げる。
「そんな目ぇしても跡部が思うてるような効果はないで。かわええだけや……」
 呟くように言うと、跡部の後頭部へと手を回して頭ごと抱き込み、跡部は忍足の首元へと顔を埋める格好となった。
「放せって言ってるだろ……」
 これ以上ジタバタ暴れても忍足の腕から逃げられないと悟った跡部だったが、最後の悪足掻きとでもいうかのように、弱弱しく自分の主張を呟いたのだった。
「俺の質問にちゃんと答えてくれたら放したるよ」
 ようやく大人しくなった跡部に後頭部の髪の毛を梳きながら宥めるように言った。




「なんで泣いてたん?」
 暫くの間無言で抱き合っていたのだが、その沈黙を先に破ったのは忍足だった。
「……別に」
 まさか忍足の跡部への気持ちがすでに冷めてしまったのではと思っているとは言えずに、素っ気無い返事をしてはぐらかすしかなかった。
「別にやないやろ。まさか家が恋しくなったとかいうわけちゃうやろ?」
「……そんなわけあるか」
 恋しいのは忍足だけだと心の中で続ける。
 すると跡部の頭の上で大袈裟な溜息を吐く忍足。
「なぁ、言うて? 同じ部屋におる恋人が夜一人で泣いとったんやで。気になるやんか」
「そんなこと、どうだっていいだろ。お前には関係ねぇよ」
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