novel
□†蝉時雨†
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言葉を紡げない自分は
----声を失った自分には
何故、命令しないのか
なんて聞くことも出来なくて。
日々弱っていく御主人を見ながら
只々、敵方の想い人の思惑を知りたかった。
武田が此方を攻めるなら、彼から文の1つも有るはずなのに。
彼からはここ2月の間、連絡はない。
…裏切られた、と言って仕舞えばそれまでだけど。
「…小太郎や…」
弱々しい御主人の声に、手を握って応える。
“此処に居ます、御主人。”
と、声にならぬ息遣いで答える。
「…もう、よいのじゃ。」
その言葉と同時に、
嫌な鉄と火薬の臭い。
遠方から聞こえる、幾多の足音。
伝令の切迫した声。
『申上げます…!
武田の軍勢約2万、此処小田原へと進軍中です!』
ねぇ、
何故なの?