longstory:BARARA
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粉雪の舞い始めた冬の半ばのこと。
長曾我部軍は明智軍に奇襲を掛けるべく、
坂本へと出陣した。
見送りには、行った。
あの、漆器を持って。
「これを、持っていけ。」
「元就…こりゃぁ…。」
桜色の風呂敷包みを、そっと開く。
黒い杯は、粉雪を写し。
桜の模様に色を添える。
「これは、大切モンだ。持っていくわけにゃぁ…」
「持っていけ。この杯を我と思うて。」
そういって。
一回り小さい杯を、元親に手渡した。
会話は。
たった、それだけ。
-----当たり前だ。
自分は、杯を渡して走って逃げたのだから。
もう。
それ以上。
元親の顔を、見ていられなかった。
これ以上は、無理だ。
泣いてしまう。
これが、最後になるかも知れないのに。
そういう悲しみよりも。
只。
一緒に行けない事への悔しさと寂しさばかりが募って。
最後に。
涙でゆがんだ視界がとらえたのは。
大きくて。
優しい背中だった。