短編2

□あの子に内緒で夢を見る
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土千甘、遊女パロ。色恋さまへの提出作品



酒が飲めるわけでもない。女遊びを得意とするわけでも、好きというわけでもない。むしろ、苦手なほうなのは、己で重々承知している。
けれど、平助や原田の誘いを断りきれずに久々に足を踏み入れた花街で出会ってしまったのだ。
角屋に呼ばれた一人の遊女『桜乃』に。


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――――


焚かれた香の甘い匂いが鼻腔を擽る。
さして広くもない座敷は、行灯の灯りだけでは頼りない。
じじ…と弱く燃える灯火は、二つの影を儚げに揺らしていた。

「いいんですか?新選組の副長とまあろうお方が遊廓通いなのど……」

気遣わしげな声音で桜乃は、膝に頭を乗せている男に問うた。

「かまうか。俺だって人間だ。好いた奴に会いに来て何が悪い」

男――もとい土方は、尊大な物言いで返す。
桜乃の膝に頭をを乗せているので、必然と彼女を見上げる形になってしまう。

腕を伸ばして頬に触れる手を滑らせて首に回す。そのまま引き寄せて紅の引かれた唇に己のそれを押し当てる。

口付けたまま、ゆっくりと体を起こした土方は、今度は桜乃を布団にゆっくりと押し倒した。

深く交えていた唇話す頃には、彼女の瞳は甘く蕩けて頬は蒸気してほんのり赤く染まっていた。

「あんまり、可愛い顔してくれるな」

桜乃を見下ろして土方は、苦笑を溢す。
色を売る遊女にしては、桜乃は控えめで奥ゆかしい娘である。艶やかというより可愛らしく美しい。だからなのか、土方は強く惹かれたのだ。

「千鶴…」

土方は、彼女の名を呼んだ。
源氏名の桜乃ではなく、真名(まな)である千鶴と。
それは、指切りも、あげるものも、何もない彼女が土方に渡した唯一のもの。

「はい…」
「……いや、何でもねぇ…」

土方の話を待っていた千鶴だが、彼ははぐらかしてしまう。
それを不思議そうにしている千鶴に土方は、また苦笑を溢して誤魔化すように口付けをした。


夢がある。
けれど、まだそれは言わない。まだ、時が早い。
いつか、お前を落籍して所帯を持ちたいと…
けれどまだ、それには、もう少し……
時が満ちるまでの間は、遊女に溺れる愚か者で





あの子に内緒で夢を見る

隣に君がいる夢を…





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企画『色恋』さまに提出しました。
お題に沿ってあるのか微妙に不安です。
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございます。



20110101

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